1.研究開発の背景
情報化社会の進展に伴い、コンパクトな大容量半導体の供給が必須となり、これに応える微細加工技術の進展と革新が望まれていた。1980年代前半は軟X線等倍露光法が有望視されたが、この方式は解像性に優れるものの、大面積マスクの作成が困難であった。また、従来の紫外線露光法 (光源波長248 nm) は屈折光学系を用いた縮小露光が可能だが、さらなる微細化の点では、露光光源の波長や光学系を構成する光学材料に限界があり (当時の限界はパタン線幅100 nm)、次世代半導体 (100 nm以下) の要求を満たすものではないと危惧された。こうした状況から、次世代露光の要求条件 (縮小露光、バルクのマスク、数世代に亘って適用可能な構成の3条件) を満たす露光法の模索が始まった。
日本では、木下が極端紫外線 (EUV) を光源とする反射型縮小リソグラフィを発案し、1986年には縮小露光実験により、縮小率1/5の4ミクロンのパタン形成に成功していた。
一方米国では、0.5 μmから0.2 μmでの半導体の量産技術では日本を上回れないとして、ほぼ同時期に0.1 μmを目指した研究が進められた。LLNLのCeglio等は1988年に光源波長を4.5 nmとする反射縮小光学系案を提案している。像面湾曲を避けるためにマスクを凹球面とした。また、AT&T
は1990年に光源波長を36 nmとする1/20の縮小露光を検討しており、反射面にはイリジウム(Ir)を形成したシステムを提案していた。
2.業績内容
露光装置は光源、縮小光学系、マスク、レジストからなるが、木下はそれぞれについて独創的な提案をし、実用化に向けて実験・実証を進めた。露光の3条件を満たすべく、光源波長を13 nmとし、Mo/Si多層膜を形成した非球面ミラーによる反射光学系、同じく多層膜を形成した反射型マスクによる露光光学系案を1989年に提案した。
この構成案が現在の極端紫外線露光方式(EUVL)となっている。図1に提案した非球面光学系を基とする現在の露光システムの概要を示す。

図1 EUVL露光装置の概要
以下に主な提案概要を示す。
- 露光波長の選択
反射型システムでの短波長光源に対する解像度、レジストへの浸入深さ、多層膜の反射強度などを総合的に判断し、露光波長をSi吸収端を超えた13.5 nmとした。
- 非球面反射鏡光学系の提案
露光用光学系としてテレセントリック性を満たさねばならないことから、マスクへの斜め入射系と非球面ミラー2枚からなる光学系を考案した。この構成案は、現在の6枚非球面反射鏡光学系の設計原理となっている。また、米国Tinsley社と共同で高精度なミラーを開発し、1995年には10 mm × 12.5 mmの領域でのパタン形成 (大面積露光)に成功した。
- 反射型マスクの提案
EUV領域での透過型マスクの製作は困難であることから、木下はマスク基板上に反射鏡表面と同様のMo / Si多層膜を形成させた反射型マスクを考案した。
- 2層構造レジストと化学増幅系レジストの提案
従来のPMMAレジストではEUVに対する吸収が強すぎるため、Si含有レジスト (SPP) とOFPRとの2層構造を提案した。また、PMMAは低感度であるため、さらに高い露光感度が期待できる化学増幅系レジストを提案した。
以上の露光システム開発が一段落した2002年からは、EUVLに用いるマスク・レジストの欠陥検査法の検討を進め (第I期CREST)、マスクの吸収体パタンとマスクブランクスの位相欠陥の両方を観察できる明視野観察系を構築し、100 nmの吸収体パタン、ならびに20 nmの位相欠陥の観察に成功した。さらに、2008年からは次世代の25 nm欠陥検出可能なレンズレスシステムの開発をスタートさせている (第II期CREST 2008-2013)。
一方、2001年からレジストメーカーと共同でレジストからのOutgasの評価など進め、カーボンコンタミネーションの少ない材料を示してきた。また、2010年には将来の22 nm世代レジストの開発が可能な干渉露光システムをニュースバルのアンジュレータビームラインに構築し、これまでに
17 nmのパタン形成に成功している。
このように、EUVL実用化に向けリソグラフィ技術すべてにわたるインフラ整備に努めている。
3.本業績の意義
半導体加工の微細化はリソグラフィ技術に依存していると言っても過言ではない。木下は次世代半導体に対応できる加工技術として、極端紫外線リソグラフィ (EUVL) を世界で最初に発案し、その技術を用いたEUV露光装置の試作を進める中で、高い解像度と大面積露光の可能性を実証し、この分野における世界的リーダーとしてEUVLの実用化を推進してきた。
木下による研究成果の波及効果は極めて大きく、国内外における文献引用にとどまらず、今日ではEUVLが次世代のパタン線幅32 nmから22 nm、16 nmに至るSiデバイスの限界までの超微細加工およびメモリー量産技術として位置づけられ、世界中の半導体装置研究機関および企業において研究開発が進められている状況である。各機関の成果を基に、IntelのMoore氏は2002年にEUVLにより"Mooreの法則"が維持できると評価している。
また、従来のArF液浸露光とのパタン比較も進み、EUVLの優位性が確認された。コスト面での見直しもなされ、ArF液浸露光法や、それを用いたダブルパタンニングに比べて価格面でも優位であり、早期の実用化に期待が寄せられている。
"EUV光を用いた反射光学系による露光"という革新的なリソグラフィの提案によって、従来の露光法では不可能であった40 nm台のパタン加工を実現し、さらにEUV露光装置の実用化に向けて半導体業界を牽引してきた功績は大きい。また、装置開発のみならず、マスク・レジスト分野においても先駆的な研究を進め、将来の半導体量産技術のインフラ整備の面でも今なお多大な貢献を続けている。
以上述べたように、半導体製造における革新的なリソグラフィを発案し、さらに実用化への道を導くことに貢献した。