第3回(平成15年度)山崎貞一賞 材料分野

有機ケイ素ポリマーを前駆体とした各種機能性セラミックスの開発と工業化

受賞者
石川 敏弘 (いしかわ としひろ)
略歴
1979年 3月 大阪市立大学大学院 工学研究科
前期博士課程 修了
同 年 4月 宇部興産(株) 入社
1992年 7月 工学博士号 取得
1997年 4月 山口大学 客員教授(兼)
1998年 10月 広島大学 客員教授(兼)
1999年 7月 宇部興産(株)宇部研究所 機能材第一研究部長
2003年 10月 宇部興産(株)宇部研究所 機能材料部門長
現在に至る

選考理由

 機能性セラミックスの一種であるチタニア(二酸化チタン)の光触媒効果は、1972年に東京大学の藤嶋教授によって報告され、除菌、脱臭、空気清浄等に広く応用され始めている。しかしながら、潜在需要の強い水質浄化に対しては、チタニア粉末をコーティングした従来の光触媒では、流水中での粉末のはがれなど解決すべき問題が多く本格的な実用化を阻んでいる。この問題を解決するための開発が行われてはいるが、耐久性と光触媒活性を両立できるものは得られていないのが現状である。  
 石川敏弘氏は1983年から宇部興産株式会社・宇部研究所においてセラミックス連続長繊維の研究に取り組み、多くの基礎的研究をベースに、繊維の表面がチタニアのナノ結晶で構成された高強度チタニア繊維の開発に世界で初めて成功した。この新規なチタニア繊維は、ポリカルボシランにチタニア結晶となる低分子量添加物を混合させ前駆体とする熱処理過程で、ブリードアウトと呼ばれる自然現象により、チタニアを繊維表面へ滲み出させ、これを結晶化させて得られるのが特徴である。その構造は、繊維の表面に向かってチタニア結晶が多くなる傾斜組成となっており、最表面が8nmのチタニア結晶で覆われている。この成果は2002年3月7日発行の科学雑誌"Nature"に掲載された。石川氏はこれ以前にも有機珪素ポリマー、ポリカルボシランを出発原料とする連続長繊維の基礎研究成果を基に、2000℃に耐えられる結晶質炭化珪素繊維などをすでに開発し、1998年2月の"Nature"と、1998年11月の米国科学雑誌"Science"に発表した。 高強度チタニア繊維は宇部興産株式会社より光触媒繊維モジュールアクアソリューションとして商品化され、北海道から鹿児島に至る温泉地ですでに27台設置された。この装置を適用したアルカリ単純温泉のテストにより、レジオネラ菌および大腸菌が画期的に減少することが確認されている。また、京都大学大学院の実験では、あおこ毒が約2時間で10%以下に減少することを確認している。さらにダイオキシンや環境ホルモンの汚染水にも極めて有効であることから3,500億円と見込まれる水処理市場でこれからの売り上げ拡大が大いに期待できる。上記の結晶質炭化珪素繊維は国内外の宇宙・航空機関連企業から高い評価を受けすでに商品化されている。これら商品化の基礎となった石川氏の有機珪素ポリマーと有機金属化合物の反応に関する論文は2002年8月までに116件も引用され、学術面でも貢献するところ極めて大であると認められる。その一方で、26件の主要関連特許も権利化している。

研究開発の背景

 機能性セラミックスの一種であるチタニア(二酸化チタン)の光触媒効果は、1972年に東京大学の藤嶋教授によって報告され、除菌、脱臭、空気清浄等に広く応用され始めている。しかしながら、潜在需要の強い水質浄化に対しては、チタニア粉末をコーティングした従来の光触媒では、流水中での粉末のはがれなど解決すべき問題が多く本格的な実用化を阻んでいる。この問題を解決するための開発が行われてはいるが、耐久性と光触媒活性を両立できるものは得られていないのが現状である。私どもは20年間セラミックス連続長繊維の研究に取り組み、世界最高の耐熱性を有する結晶質SiC繊維の開発など多くの基礎的研究成果をベースに、繊維の表面がチタニアのナノ結晶で構成された高強度チタニア繊維の開発に世界で初めて成功した。

業績内容
図

 今回の受賞対象となった私どもの業績は右図に集約される。私どもは、1983年からポリカルボシランと有機金属化合物を反応させることにより得られるポリメタロカルボシランを前駆体としたセラミックス連続長繊維の開発研究を行ってきた。その中で、AlがSiC結晶と置換型の固溶体を形成することやSiCの焼結助剤として有効であることに注目し、2200℃まで安定な結晶質SiC繊維(SA繊維)の開発に成功した。私どもは、この研究成果を英国の科学雑誌「Nature」(1998年2月19日号)に発表した。次に、このSA繊維の中間原料であるSi-Al-C-O繊維の織物を積層し、1900℃、500気圧という高温・高圧下でホットプレスすることにより、円柱状の繊維が六角柱状に変形して最密充填された結晶質SiC繊維のみからなるセラミックス(SA-チラノヘックス)が得られることを見出した。このセラミックスを構成する繊維材の境界領域には、乱層構造からなる薄い(15nm)炭素層が均一に形成されており、これが破壊の際の滑り層として働き窒化ケイ素の約30倍もの破壊エネルギーを示す。また、1600℃の空気中でも室温強度を保っている。従来のSiC複合材料(SiC/SiC)が1300℃を超える高温で顕著な強度低下を示すことと比較すれば大きな改善点である。この研究成果については、米国の科学雑誌「Science」(1998年11月13日号)に発表している。 次いで、これらの技術を基に光照射によりあらゆる有機物の酸化分解機能を発現するナノレベルの表面傾斜構造を持つ高強度チタニア繊維の開発に世界で初めて成功した。この研究成果は2002年3月7日発行の「Nature」に発表している。この新規なチタニア繊維は、ポリカルボシランに熱処理によりチタニア結晶に変換され得る低分子量化合物を混合しておき、紡糸後に高温の空気中で焼成する過程でブリードアウトと呼ばれる自然現象(表面に低分子量化合物が滲み出す一種の相分離現象)と無機化を競争的に進行させて合成される。このチタニア繊維(直径5〜7μm)は、中心部はシリカで表面に向かってナノレベルのチタニア結晶が増大する傾斜組成を有しており最表面は8nmのチタニア結晶が焼結した構造からなる。その為,従来のコーティング品では問題となっていた剥離問題が解決され、またピアノ線の2〜3倍と言う高強度も実現できたことから、大きな負荷がかかる高速流水中での使用も可能となった。この繊維は、光を照射することにより、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドやタバコの煙に含まれているアセトアルデヒドは勿論のこと、難分解性と言われているダイオキシンも瞬時に分解する能力を有している。また、京都大学大学院の実験では、あおこ毒が約2時間で10%以下に減少することも確認している。更に、レジオネラ属菌や大腸菌に対しては、死滅活性を示すとともに菌の細胞膜や毒素を二酸化炭素と水にまで効果的に分解する能力を有していることも確認している。

本業績の意義

 上記の結晶質SiC繊維やSA-チラノヘックスは国内外の宇宙・航空機関連企業から高い評価を受けすでに商品化されている。また、光触媒機能を有する高強度チタニア繊維も浄水装置(アクアソリューション)として商品化され、北海道から鹿児島に至る温泉地で既に35台設置されている。現在、各種流体浄化分野(推定市場規模:3500億円)で積極的な市場展開が図られている。このように本業績の成果は、エネルギー・環境分野で大きな貢献が期待できる。これら商品化の基礎となった私どもの有機ケイ素ポリマーと有機金属化合物の反応に関する論文は2002年8月までに116件引用されており、26件の主要関連特許も権利化している。


写真

↑このページの先頭へ