• ホーム
  • 授賞一覧
  • 第7回(平成19年度)山崎貞一賞 半導体及び半導体装置分野

第7回(平成19年度)山崎貞一賞 半導体及び半導体装置分野

サブ50nm MOSFETの先駆的研究開発

受賞者
岩井 洋 (いわい ひろし)
略歴
1972年 4月 東京大学 工学部 電子工学科 卒業
1973年 4月 東京芝浦電気株式会社 入社
1997年 4月 株式会社東芝マイクロエレクトロニクス技術研究所
主幹
1999年 4月 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 教授
2007年 11月 東京工業大学 フロンティア研究センター 教授
現在に至る

受賞者
百瀬 寿代 (ももせ ひさよ)
略歴
1984年 3月 お茶の水女子大学大学院 理学研究科 修士課程修了
同年 4月 株式会社東芝 入社
2006年 2月 学位取得 東京工業大学 博士(工学)
同年 4月 株式会社東芝 半導体研究開発センター 主務
現在に至る

受賞者
大黒 達也 (おおぐろ たつや)
略歴
1989年 3月 北海道大学大学院 理学研究科 修士課程修了
同年 4月 株式会社東芝 入社
2006年 4月 株式会社東芝 半導体研究開発センター 主査
同年 10月 広島大学 客員教授 兼務
現在に至る

授賞理由

 1990年代前半に岩井氏らは共同で研究開発を行い、当時の世界的常識と考えられていた『0.1μmがLSI(大規模集積回路)の微細化限界である』という予測を打破って、40nmゲート長のMOSFETの試作に成功した。
 その後、LSIの微細化は順調に進み、現在もその歩みは続いている。この1990年代前半の岩井氏らによって達成された歴史的な成果が、LSI発展を加速した原動力の一つとして、現在でも世界的に高い評価を得ている。今日、多くの電子機器や情報通信システムにとってLSIは必要不可欠な要素になっており、産業および社会へ多大な貢献をしていることを見ても、この研究開発の成果がいかに重要であったが窺える。
 岩井氏らは、LSIの微細化限界に関連する以下のような課題に対して、独創的な研究開発を行った。
 当時はSub-50nm MOSFETが室温で動作するかどうかの根本的な疑問に対して、明確な答えはなかった。この問題に対しては、モンテカルロシミュレーションを厳密に実行して、ゲート長25nmまでのMOSFETの室温動作を確認し、同時にサブ50nm MOSFETで構成するLSIの基本設計に対する指針を見出している。
 MOSFETの微細化に障害になる現象として、ゲート絶縁膜からのトンネル電流の影響が懸念されていた。この問題を克服するためにRTO(Rapid thermal oxidation)による低欠陥極薄SiO2膜の形成技術を開発した。
 また、当時はLSI微細構造を作製する基本技術である光リソグラフィの技術レベルは先行研究には不十分であった。この問題に対しては、酸素プラズマによるレジスト狭幅化手法の採用で解決した。一方、接合深さ20nm以下のソースとドレイン領域の形成方法および電極の低抵抗化が大きな課題であったが、NiSi系の電極材料の選択とRTA(Rapid Thermal Annealing)による高濃度拡散法の適用で解決した。さらに、P+多結晶ゲート電極からホウ素のSiO2膜を経たSi基板への拡散も課題であったが、RTN (Rapid Thermal Nitridation)により、SiO2絶縁膜をSiON膜に変換し、この現象の抑制に成功した。
 このように多くの技術的障壁を乗り越えて、サブ50nmゲート長のMOSFETの試作とその要素技術の開発に成功したことは、その後のLSI技術分野の継続的発展に大いに貢献している。このことは世界的に高く評価されており、日本が誇りうる優れた業績である。
 以上のように、岩井洋氏、百瀬寿代氏、大黒達也氏らによって達成された独創的で高い技術水準の研究開発成果は、社会とLSI産業への多大な寄与があり、よって本賞受賞とする。

研究開発の背景

 大規模集積回路(LSI)は、人々の活動を補助・制御する中枢部品として、現代では必要不可欠のものとなっている。少子高齢化社会においては介護ロボットなど人間の知的作業を代行する機器が重要で、このためにはLSIの更なる高性能化や低消費電力化が必要である。また環境保全の為に地球規模での省エネ化が急務となっているが、その為にLSIの果たせる役割は大きい。今後もLSIは日本にとって戦略的なハイテク技術として、その重要性が益々高くなっていくと予想される。
 LSIの主流はCMOS LSIであるが、これはMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)で構成されており、性能向上・低消費電力化の為にはMOSFETの微細化が重要である。しかしながらMOSFETの性能を決めるゲート長には微細化限界があり、長年に亘って50nm以降の微細化は不可能とも言われてきた。この限界を打破しLSIの更なる高性能化・低消費電力化を実現するためには、様々なオリジナルな技術が必要であると思われていたが、その糸口がなかなか掴めない状況が続いていた。

業績内容

 受賞者らはサブ50nm MOSFETを実現するために、1980年代末から様々な方向からの検討を開始した。先ずはモンテカルロシミュレーションを用いて平面型MOSFETが25nmまで室温で動作することを検証し、具体的な構造・寸法を明らかにした。当時のプロセス技術の限界を遥かに越えたゲート微細化とソース・ドレイン接合極浅化の新プロセスを開発・導入して実際にサブ50nm MOSFETを作製し、室温での正常なトランジスタ特性を確認した。更に、その特性ばらつきが将来量産に耐えるであろうことを示した。
 直接トンネル電流が流れそれ以下の薄膜化は困難と考えられていた2.5nm未満のゲート絶縁膜においても微細MOSFETでは正常かつ高性能なトランジスタ動作をすることを明らかにした。その動作原理を示し、この技術によって当時の世界最高性能を実現するとともに、Rapid thermal oxidation技術を導入した薄膜が、均一性が高くかつ欠陥の無い信頼性の高い絶縁膜であり、実動作上問題ないことを明確にした。また、低抵抗材料としてNiSi (ニッケルモノシリサイド)を初めてSalicide構造に導入し、シリサイドソース・ドレインの極浅接合化を可能にすると共に細線効果の抑制に成功した。更に、微細MOSFETの応用としてRF回路への適用を提案し、RF CMOSの有効性を世界に先駆けて実証した。
 以上は、いずれも受賞者らがオリジナルに開発したブレークスルー技術であり、先端CMOS LSIに不可欠な技術として世界中で広く製品に使われている。
 更に受賞者らは、将来の3次元素子に向けて、ゲート薄膜下でのチャネル面方位によるMOSFETの移動度改善の指針を示した。またゲート絶縁膜の更なる薄膜化のために、製品化が始まりつつあるHfSiON系膜に続くHigh-K絶縁膜としてLa2O3系等の希土類系酸化膜の先導的研究を行ない、その優位性を示し将来の道筋を明らかにした。これらの技術も今後の製品化に繋がる重要な研究成果である。

本業績の意義

 受賞者らが行った研究開発は、現代社会の活動を補助・制御する頭脳であるCMOS LSIにおいて、その高性能化・低消費電力化をサブ50nm以降に亘って継続するために必要不可欠な技術の創生であった。ロードマップで50nm以下が不可能と思われ、世界中の半導体産業界に将来の微細化研究開発への悲観論が広がっていた時代に、その道筋を具体的に示しており、本業績の社会的・経済的なインパクトは大変大きい。

写真
↑このページの先頭へ