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第7回(平成19年度)山崎貞一賞 バイオサイエンス・バイオテクノロジー分野

キャップトラッパー法の開発、完全長cDNAの単離とゲノム機能注釈(アノテーション)のための基盤技術

受賞者 受賞者
Carninci, Piero (カルニンチ ピエロ)
略歴
1989年 3月 トリエステ大学 生物科学博士号 取得
1990年 5月 フェラーラ大学 生物学国家資格 取得
1990年 10月 TALENT s.r.l 研究員
1995年 10月 (独)理化学研究所 
ライフサイエンス筑波研究センター
STAフェロー
1997年 4月 同 研究員
2003年 4月 同 中央研究所 先任研究員
兼 同 ゲノム科学総合研究センター 上級研究員
2006年 4月 兼 群馬大学客員教授
現在に至る

授賞理由

 今日までにヒトをはじめ多様な動植物、微生物のゲノム塩基配列情報が明らかとなり、今ではゲノム研究は、ゲノムのどこがRNAにコピー(転写)されるのか、また、転写されるタイミングやその量はどのように制御されているのかを解明するステップへと進んでいる。このステップでは生体内のRNAの分析が不可欠である。しかしRNAは化学的に不安定で分解されやすく、またゲノム上にはRNAにコピーされる部位が十数万箇所以上あると推定され、それらの発現(転写)は生命活動の中で時間的、空間的(部位的)に多様に変化するため、生体内RNAの全貌の解析には多くの困難が伴っていた。
 カルニンチ氏は、先ずゲノム上でRNAにコピーされる部位を正確に確定するため、mRNAを化学的に安定なDNAに正確に写しとった「完全長cDNA」を合成する方法を開発した。完全長cDNAの作製は、「Cap-trapper」と呼ばれる革新的な選択工程により可能となった。この「Cap-trapper」法は、RNA解析の革新的な技術として、多数の学術上、および、産業上有用な生物のゲノム解析プロジェクト研究に活用され、多数の有用、重要遺伝子の発見につながっている。この「Cap-trapper」技術は商業化され、網羅的なヒトcDNAコレクションが広く一般の利用に供されるようになり、学術研究のみならず創薬ターゲットの識別などにも有意義に活用されている。同氏が次に「Cap-trapper」法の応用により開発したCAGE法は「Cap-trapper」法で合成された完全長cDNAの末端部分のみを選択的に収集、解析する手法である。この方法によって、様々な生命活動に応じてゲノム上のどこからどれだけのRNAがコピーされるのか正確に、定量的に測定できるようになった。その結果、がんや免疫応答の分子メカニズムの解明などの医学研究に大きく貢献するとともに、タンパク質をコードしないRNA(いわゆるノンコーディングRNA)が極めて大量に存在することを明らかにするなど、基礎医学・生物学にも大きなインパクトを与えた。
 完全長cDNA技術と、CAGE法の特許は、理研と(株)ダナフォーム社が共同で取得または出願をしている。理研の完全長cDNA合成技術により網羅的なヒトcDNAコレクションが構築され、またCAGE法についても遺伝情報の発現の解析や新しい遺伝子ターゲットの診断、革新的な検出方法に応用した商業化が推進されている。また前述のように、これらの技術は我が国のイネゲノムプロジェクトに適用され、有用遺伝子の探索や分子育種などの農業技術面でも大きな影響をもたらした。
 以上、カルニンチ氏が開発したキャップトラップ技術は、基礎的な技術開発から学術的な研究へと発展し、最終的には商業的な応用に結びついたよい例であり、産業及び学術面において著明な貢献をなしたものであり、よって本賞受賞とする。

研究開発の背景

 ゲノム配列の機能を十分に理解するためには、RNAを単離し、転写されてタンパク質(mRNA)にコードされるもの、あるいは構造性又は機能性RNAにコードされるもの(ノンコーディングRNA)に分類することが極めて重要である。残念ながら、ゲノム配列のコンピュータ解析は発現したRNAを正確にマッピングする事ができず、特にタンパク質としてコードされないRNAは配列に明確なパターンがないためにそれが顕著である。RNA配列の識別はゲノム解析における最優先課題の一つであり、これが実現すれば、RNAの構造と発現タンパク質が解明され、プロモーターと呼ばれる転写活性を調節する領域を同定してマッピングする事が可能になる。相補的DNA(cDNA)のクローン手法を用いてこのプロモーターを部分的に同定することは可能であるが、90年代の半ばまでmRNAの完全コピーから成る完全長cDNAを単離できる簡便な技術がなかった。これまでは、cDNAライブラリの内で完全長cDNAが含まれていた個々のcDNAクローンは10〜20%以下でしかなく、生物学的、機能的な結論を引き出して遺伝子の構造の実像を推定する事は不可能であった。これに代わって、完全長cDNAには、元のmRNA構造の転写開始点から終止点までの情報が全て含まれている。これらの配列をコンピュータによってゲノムに重ねると、遺伝子の細かな構造を決定する事ができる。完全長cDNAを利用する事ができれば、タンパク質の発現や、構造の決定などの下流における機能の研究の他、様々な生物学的研究の資源となる。

業績内容

 完全長cDNAのクローニング問題に対処する為、受賞者はmRNAの5'端にあるキャップ構造にビオチンを付加するCap-Trapper技術を開発した。この方法はビオチンを使って完全長cDNAを効率的に単離し、これを不完全なものから分離する。この技術に基づき、受賞者等は、極めて稀に発現するRNAから完全長を分離する更に進んだ技術を開発し、これにより、哺乳類のRNAの少なくとも半分はタンパク質としてコードされず、既存のmRNAのアンチセンスであるRNAのような構造性又は調節性の機能を持つ事を発見し、その活性を実際に調節しているという更に重要な発見に至った。
 更に受賞者はCap-Trapper技術を使ってCap Analysis Gene Expression(CAGE)技術を開発した。この技術は完全長cDNAの5'端から分離された短いストレッチを基本とする。これらタグは大量規模の塩基配列決定には理想的であり、コンピュータによってゲノム配列にマッピングする事ができる。この操作でRNA転写を制御する領域の近くにあるRNA転写開始点を同定できるが、「コアプロモーター領域」と呼ばれるこうした近隣の領域がRNAの発現を制御しているので、RNA発現も測定するCAGE技術によってRNA発現と調節領域を合わせて研究する事が可能になる。

本業績の意義

 受賞者等はCap-Trapper技術によってRIKEN完全長cDNAコレクションを作製した。このコレクションにはマウス、ヒト、ラット、ニワトリ、ショウジョウバエ、ミツバチ、コメ、シロイズナズナ、及び数種のモデル生物の完全長cDNAクローン用の資源が含まれており、ゲノム注釈だけでなく、cDNAマイクロアレイ、タンパク質発現、タンパク質間の相互作用、in-vitro及びin vivoの完全長cDNA発現システムなどの機能研究にとっても重要である。マウスの完全長cDNAコレクションはヒト遺伝子の産生に対する考え方を変えるものであった。実は、哺乳類のゲノムはほとんどが各種の重複したRNA転写物に転写され、その哺乳類ゲノムによって転写されたRNAの半分以上はタンパク質をコードしないのである。哺乳類では少なくとも70%の遺伝子がセンス/アンチセンスの関係にあり、アンチセンスRNAはセンスRNAの発現レベルに影響を与えている。異なる転写物の種類は181,000を超え、CAGE技術を使ってマッピングされ、研究された調節領域(プロモーター)は少なくとも240,000に及ぶ。プロモーターによる発現クラスタリングは転写ネットワークの解析において有用かつ重要なものであり、生物学に組織的かつ総合的にアプローチする上では不可欠である。CAGE技術は国家的、国際的プロジェクトで利用されている。CAGE技術は独創的なものであり、ゲノムネットワークプロジェクトやNIH主導の競争的な国際プロジェクトENCODEで使用されている基幹技術の一つでもある。
 これら技術は特許が与えられ、完全長cDNA及びCAGE技術を商業化した理研のベンチャープログラム、(株)ダナフォーム社によって商業利用されている。

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