最新の授賞

令和5年9月19日(火)に開催した理事会にて今年度の受賞者を下記2分野4名に決定いたしました。

計測評価分野授賞業績

題 目:超高速動的構造観測装置開発と光機能物質開拓への応用
受賞者
受賞者
腰原 伸也 (こしはら しんや)
所 属
東京工業大学 理学院 化学系 教授
受賞者
受賞者
足立 伸一 (あだち しんいち)
所 属
高エネルギー加速器研究機構 理事
受賞者
受賞者
羽田 真毅 (はだ まさき)
所 属
筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター 准教授

バイオ・医科学分野授賞業績

題 目:オーキシンデグロン技術による迅速な細胞およびマウス個体内タンパク質発現制御の実現
受賞者
受賞者
鐘巻 将人 (かねまき まさと)
所 属
国立遺伝学研究所 遺伝メカニズム研究系 教授
総合研究大学院大学 先端学術院 先端学術専攻 教授
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻連携講座 教授


受賞者記念コメント

計測評価分野

腰原 伸也様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  物質科学分野、材料開拓分野において、歴史ある大変重要な賞をいただくこととなり、身に余る光栄と感じております。私たちは、物質科学の発展が希求する超高速動的構造観測という新観測技術、そして逆にその技術の実現が生み出す、光応答物質科学の新たな方向性(光誘起相転移物質の開発等)、という相互の影響が、今後の物質・材料分野の発展に必要不可欠と信じ、本研究を推進してきました。この研究方向への強い励ましをいただいたことに感謝すると同時に、更なる展開への責任も痛感しております。本技術の開発にあたって、様々なご協力をいただいた技術支援関係者、特に大型施設の皆さま、並びに物質合成関係の皆さまにこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  やはり、放射光や超短パルス電子線といった、量子ビーム技術(物理、量子エレクトロニクス、加速器科学)の最先端と、光誘起相転移という新しい光機能物質の研究(化学、材料開拓、分子科学、生命機能分子科学)をどうマッチングさせるかが、研究の開始以来、今に至るも工夫と苦闘を続けている最重要課題です。ただこの点に、観測技術、物質合成両分野の研究者仲間はもちろん、若手(含:学生諸子)の皆さんの多大な協力をいただくことができました。そして、光による物質構造変化の最初の10兆分の1秒という基礎的知見に基づいて、超高速光情報通信材料はもとより、光エネルギー変換材料など多彩な光機能物質・材料の開拓に至れたことは、研究者の一人として深い喜びを感じております。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  やはり何と言っても、放射光や超短パルス電子線といった、量子ビーム技術分野(物理、量子エレクトロニクス、加速器科学)と、光誘起相転移に代表される新しい光機能物質設計・開拓(化学、材料開拓、分子科学、生命機能分子科学)という全く異質な科学を結び付け、具体的な物質開拓にその展開方向をまとめあげるのか、という点が本研究の最大の特徴です。まさに苦労した点でもありますが、霧の中の山旅にも例えられる異分野融合が具体化し、晴れ間が広がると同時に、無関係と思っていた分野、さらには予想外の分野との関係も含めた、知識の眺望パノラマが広がる瞬間を垣間見れることは、科学研究に取り組むことの醍醐味でもあります。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  今後、自由電子レーザーや新型加速技術の進展による巨大施設の発展のみならず、レーザー技術との融合で、現在は大規模な設備が必要な動的構造観測技術の小型化や、レーザー光の精密位相制御、さらには光励起で発生させる電子線のスピン偏極制御などの技術が急速に進展すると期待されます。それによって、現在行われている光通信、演算機能物質の開拓に加えて、人工光合成や各種イオンチャンネル、酵素等の生命機能物質動作原理解明へと、超高速動的構造観測技術の拡張・普及が進むと期待され、実際進展しつつあります。さらに物質・材料開発の原理追及を目指す基礎分野での展開に加え、物質が活躍する現場(オペランド)に踏み込んで行く形で、動的構造の各種検査・評価装置などへの応用展開も期待されます。この分野の旅路はまだまだ始まったばかりと考えております。


足立 伸一様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  この度は、計測評価分野において栄誉ある賞を頂くこととなり、心より感謝しております。私が主に担当している放射光X線による時間分解計測は、光源加速器という大型施設を最大限に活用して実施しています。我々の計測が成功するためには、光源加速器が常に安定に運転されていることが必須であり、我々の研究は光源加速器やビームライン等の運転保守を担当する多くの研究者、技術者に支えられています。本受賞にあたり、高エネルギー加速器研究機構の物質構造科学研究所および加速器研究施設の研究・技術スタッフ、理化学研究所のX線自由電子レーザ―施設SACLAの関係スタッフに心より感謝申し上げます。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  我々の行なっている放射光X線による時間分解計測は、可視域(〜eV)のパルスレーザー光と硬X線域(〜10,000eV)のパルスX線を同じ試料に入射して、可視レーザー光によって引き起こされる物質の構造変化、電子状態変化といった摂動を、X線パルスによって検出しています。同じ光(電磁波)でも、そのエネルギーが4桁も違えば、物質との相互作用は大きく異なるため、実験を始めた当初は、検出したい摂動を正しく検出するために、かなりの試行錯誤を要しました。しかし、実験のコツが一旦つかめてしまえば、試料の種類を変えても試行錯誤することなく、短時間で検出したい摂動を正しく検出できるようになりました。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  放射光パルスX線による時間分解計測がまだ実用化されていなかった頃、物質の超高速観測には、主に紫外〜赤外域のパルスレーザー光源が用いられてきました。紫外〜赤外域の光を利用すれば、物質中の振動や価電子帯の電子状態などに関する有用な情報が得られる一方で、物質構造や内殻電子状態に関する情報を得ることは困難とされてきました。放射光パルスX線を活用した時間分解計測を実用化したことで、動的な物質構造変化や内殻電子状態の変化に関する有用な情報が得られるようになり、より相補的で包括的な時間分解計測が可能になったことで、物質・材料の機能性の発現原理の理解をさらに深める可能性が広がったと考えます。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  放射光は非常に汎用的なツールであり、基礎研究のみならず、応用研究や産業利用研究にも非常に幅広く利用されています。基礎・応用の研究分野において、なんらかの機能性を持つ全ての物質は外的刺激に対する応答を示し、機能性の発現原理の理解にはこの応答に伴う物質構造変化や電子状態変化の研究が本質的に重要です。そのような観点から、我々が開発した放射光X線による時間分解計測手法は、すでに人工光合成光触媒や半導体光デバイス等の研究開発に活用されており、今後も様々な機能性物質・材料の機能性発現機構の解明のために活用されてゆくであろうと期待されます。


羽田 真毅様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  計測評価分野において、大変栄誉ある賞をいただき、心より感謝申し上げます。私は10年以上前にドイツでポスドクをやっておりましたが、そのときから開発していた装置が形になったことを大変うれしく思います。私は、主に電子線を用いた時間分解計測を推進しておりますが、これまで非常に多くの共同研究者の先生方にご協力いただき、ご迷惑をおかけしながら研究を進めてきました。R. J. Dwayne Miller先生、加藤隆史先生、林靖彦先生をはじめとして、暖かくご指導いただきました先生方に心より感謝申し上げます。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  私は、10兆分の1秒の時間分解能を持つ電子線回折装置の開発に取り組む前に、プロトタイプ型の1兆分の1秒の時間分解能を持つ電子線回折装置を開発しまして、どのような試料に時間分解電子線回折法が応用できるのかという研究を進めておりました。当初の開発は東京工業大学で行いましたが、岡山大学、筑波大学と異動があり、そのたびに新旧メンバーで装置を全て分解して、運搬し、組み上げるということを行ってきたのが、喜びでもあり苦労でもございました。今後も新しい装置を開発するとともに、どのような新しい系に本手法を応用するのかということを常に考えて研究を進めていきたいと思っております。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  パルスX線やパルス電子線を用いた時間分解計測では、光照射直後の物質の光反応を原子・分子位置の時間変化を追いながら直接的に観測することができるというのが最も特筆すべき点だと思います。この手法と従来の光学ポンプ・プローブ法を相補的に利用することで、光照射からの電子励起、電子励起によるポテンシャルの変化から構造変化など時空間における階層的な光反応の理解というのが可能となりました。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  これまでのパルス電子線を用いた時間分解計測実験では、その波としての性質を用いた回折実験および荷電粒子を如何に短いパルスにするのかということに注力されてきました。しかし、スピン自由度や可干渉性などの性質や結像技術など今後研究が進められるべき領域がまだまだ存在します。これらの新しい領域をうまく取り入れながら材料の新奇物性を明らかにする研究を進めていきたいと考えております。



バイオ・医科学分野

鐘巻 将人様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  この度は山貞一賞を頂くことになり、大変光栄に思っております。選考委員の先生方、財団の運営に関わった方々に深く感謝申し上げます。また、これまで研究に参加した学生、博士研究員、スタッフ、共同研究者並びに研究に理解と支援をくださった全ての関係者に深く感謝し、この喜びを分かち合いたいと思います。
  タンパク質分解による迅速な発現制御というコンセプトは、15年前ほとんど注目もされていませんでした。研究成果を公表し、世界中に材料を無償配布することで、近年世界中でオーキシンデグロン技術の有用性が浸透し、数多くの論文で取り上げられるようになりました。その変化を感慨深く感じています。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  オーキシンデグロン法のコンセプト自体は単純で、植物由来のユビキチンリガーゼを導入し、標的タンパク質にデグロンタグを付加します。あとは、細胞をオーキシンで処理すれば、標的タンパク質は分解されます。当初は遺伝学的改変の容易な出芽酵母で研究を始めたが、培養細胞さらにはマウス個体へと研究材料を変えていく中で、次々と新たな実験技術を習得していくことに迫られたのは、とてもエキサイティングであったが、同時になかなか大変でもあった。また、本技術の課題克服を長年考えていて、その解決法が頭に浮かんだときは、エウレカ的な感動とすぐにでも実験したい衝動に駆られた。研究者冥利に尽きる経験でした。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  オーキシンデグロン法は、植物が持つ分解経路を異種生物に応用して実現しました。この点が、他の分解技術と異なっています。植物進化における自然界の選択の結果、オーキシンという小分子依存的に高効率に分解作用するように至適化されており、ここに進化の偉大さ感じさせます。オーキシンが誘導する標的分解は迅速かつ高効率であり、さらにはオーキシン除去により再発現も可能であることから、タンパク質発現制御法としては、現在最も優れた技術の一つと言えます。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  現在、オーキシンデグロン法は細胞生物学研究では頻用される技術になりました。将来的には、マウス個体への応用により、発生学、細胞分化、老化研究、がん研究、脳科学研究など、マウス個体を使った様々な研究に役立つことが期待されます。特に、組織特異的分解が難しい研究課題の解決に役立つでしょう。私たちはモデル生物を超えた利用、さらにはヒトの治療への応用も視野に入れた標的分解技術開発を進めており、基礎研究にとどまらない応用に期待したいです。

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