最新の授賞

令和4年9月13日(火)に開催した理事会にて今年度の受賞者を下記2分野4名に決定いたしました。

材料分野授賞業績

題 目:超臨界連続水熱合成法の発明による新規ナノ材料創製
受賞者
受賞者
阿尻 雅文 (あじり ただふみ)
所 属
東北大学 材料科学高等研究所 教授

半導体及びシステム・情報・エレクトロニクス分野授賞業績

題 目:動的再構成プロセッサの研究開発と事業化及びAI分野への展開
受賞者
受賞者
本村 真人 (もとむら まさと)
所 属
東京工業大学 科学技術創成研究院
AIコンピューティング研究ユニット 教授
受賞者
受賞者
戸井 崇雄 (とい たかお)
所 属
ルネサスエレクトロニクス株式会社 IoT・インフラ事業本部
エンタープライズ・インフラ・ソリューション事業部 課長
受賞者
受賞者
藤井 太郎 (ふじい たろう)
所 属
ルネサスエレクトロニクス株式会社 IoT・インフラ事業本部
エンタープライズ・インフラ・ソリューション事業部 担当課長


受賞者記念コメント

材料分野

阿尻 雅文様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  大変光栄に思っております。
  超臨界反応の利用は、世界的にも全くなく、まさにゼロスタートの研究開発でした。
  それが、新たな学術分野となり産業技術にも成長したことをお認め頂いたものと思います。
  本研究開発は、相平衡・物性推算、熱力学、プロセス工学、反応工学、材料科学、有機・無機化学が融合して初めてなしえたことです。分野融合の重要性を感じております。中でも、化学工学の視点の重要性を強く感じています。若い先生方、学生さんの励みになってくれればと思っています。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  超臨界という今までモノづくりに利用されてこなかった反応場をつかうことで、従来の気相、液相、固相プロセスでは合成できなかった新ナノ材料を合成できることに着眼した。しかし、それを具現化するには、常温常圧の原料を、瞬時に高温高圧の超臨界状態にする必要があり、実現は不可能と思われた。それに成功したのは、学問分野ではあまり評価されていない、化学工学、プロセス工学の視点を導入したからだと思う。流通系のシステムで、原料流体を流しつつ、高温の超臨界水と急速混合することで、それを可能とした。これによって、この分野の基礎研究が加速しただけでなく、連続大量合成を可能としており、産業技術に直結した。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  産業におけるモノづくりは、気相、液相、固相のプロセスがあるが、超臨界場を利用したモノづくりは、本研究が初めてである。従来では不可能なナノ粒子の大量合成が可能となった。また、有機と無機が均一相を形成するのは超臨界場だけである。この反応場の利用によって、有機分子が結合した金属酸化物ナノ粒子を合成することができた。これによって、ハイブリッドポリマーやナノインクの自在な合成ができるようになった。また、イオン伝導など、今までにない機能発現もみいだされ、ナノ科学に新たな展開が期待されている。新たなモノづくり技術が新たな学術を創成しただけでなく、新たな産業分野を形成しつつある。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  文部科学省のプロセスサイエンスプロジェクトにおいて、すでに取り組んでいることがある。
  ナノ材料の科学が大きな進展を見せているにもかかわらず、必ずしも十分に身の回りで実用化が進んでいない。その理由の一つは、ナノ材料を合成し成型加工するプロセスを「設計」する基盤がないからである。巨大な製造プロセスが次々に設計されている化学製品の場合との大きな違いは、ナノ粒子系については熱力学に基づく物性推算と相平衡推算ができないことにある。本技術ができたことで、分子と同様、ナノ粒子間、粒子―溶媒間相互作用を自在に制御できるようになった。ナノ粒子系熱力学(新たな学術)を作れるし、物性・相平衡推算も可能となれば、ナノ材料を産業展開するためのプロセス設計基盤、さらにはナノ材料設計基盤(産業技術基盤)を作っていけるものと思う。
  気が付けば、身の回りのいたるところに超臨界ナノ製品が使われており、また将来のエネルギー・地球環境づくり、未来社会づくりに貢献するナノ材料が提供されている、そのような大きな展開を期待している。



半導体及びシステム・情報・エレクトロニクス分野

本村 真人様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  この度はこの栄誉ある賞を頂きまして心より感謝しております。NEC、北海道大学、東京工業大学と計35年にわたって、その時々の仲間と一緒に研究開発を続けてきた一連の業績をご評価頂きましたこと、また、NEC時代の仲間と共に本賞を頂けましたこと、望外の喜びを感じております。これまでにご指導・ご支援くださった共同研究者、共同開発者、諸先輩、諸先生方、研究室のメンバー、および、研究開発生活を支えてくれた家族に深く感謝いたします。特に、一緒に研究開発と事業化の苦労を共にしたDRPチームの皆様には、受賞の喜びを共有しつつ特段の感謝をお伝えしたいと思います。ありがとうございました。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  受賞業績のコアとなる動的再構成プロセッサ(DRP)の研究開発と事業化においては、仲間と一緒に研究を始めてから事業化に至るまでほぼ十年を要し、その経験から、「着想は一瞬、事業化は十年」という標語を肝に銘じるようになりました。その間、独自性を担保する研究開発を粘り強く進めることと、独自性に頼り過ぎずユーザーにとっての有用性を追求して事業化を進めること、その双方をバランスよく進め点が一番の苦労だったと思います。また、研究開発の中で、ソフトウェアとハードウェアの双方をバランスよく研究し一体化していく工夫と、優秀なソフト・ハードの技術者集団が一丸となってそれを現実にする努力を続けたことが、事業化が成功した決め手となったと思います。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  今回、NECでの上記DRPの研究・事業化と、私個人が大学に移ってからのAI処理分野への発展的研究をトータルでご評価頂きました。それらの中を一貫して流れているのが、DRPの技術をより汎用のアーキテクチャ構想に昇華した「構造型情報処理」という概念です。この「構造型情報処理」の考え方がAI処理分野に非常に適していることを一早く提唱し、その観点からハードウェアアーキテクチャの研究開発を続けることで、北海道大学、東京工業大学においてもAI処理エンジン分野の研究成果を積み重ねることが出来ました。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  現在、半導体分野では、地政学的な経済安保戦略に関心が集中しています。しかし、それと並んで、半導体の上に載る集積回路に関して、AI処理ハードウェアの世界的な技術競争が激化しています。こちらはより中期的な競争であり、技術立国であるべき日本にとって死活的に重要な意味を持ちます。私は、この分野のカギを握るのは、パラダイムシフトを産むような新しいハードウェア・アーキテクチャの提案や、ソフトウェアと連携したアーキテクチャの構想力・設計力の強化だと考えております。今回受賞させて頂いた業績を足場に、今後ともこの分野の研究と若い世代の育成に邁進していく所存です。

戸井 崇雄様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  処理内容に応じて動的にハードウェアを再構成する動的再構成プロセッサDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)の研究開発をはじめてから20年以上の年月が経ちました。DRPは研究当初の通信プロセッサという位置づけから、その可変性を活かして、現在では進歩の早いAI(Artificial Intelligence)向けのアクセレーターDRP-AIとして発展してきました。これらの研究と事業の成果をご評価いただいたことを大変喜んでおります。この研究開発は共同受賞者だけではなく、数多くの方々に支えられてきました。多年に亘って研究開発や事業化に尽力頂いている全てのDRP関係者や家族に感謝いたします。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  DRP自体はハードウエアですが、その能力を引き出すのは高位記述言語を入力とするコンパイラの役目になります。CPUなどの汎用プロセッサと比べるとハード化されている部分が少なく、回路を自由に再構成できるDRPでは、コンパイラが果たす役割は大きくなります。DRP向けのコンパイラは、かつて日本の電機メーカーが自社内で持っていた半導体設計技術をルーツとしており、そのほとんど全ては現在に至る間に日本国内での研究開発が絶えてしまいましたが、我々はDRP向けとして独自に発展させてきました。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  今から20年ほど前の2000年代初頭にはDRPに類する再構成ができる計算機アーキテクチャが国内外で数多く提案され、一部は事業化されましたが、その多くは残っていません。昨今ではソフトウエアの重要性は認識されていますが、かつてはハードウエア偏重の研究開発がほとんどでした。そのような中で、ハードウエア開発だけでなく、コンパイラやアプリケーションなどのソフトウエアを同期させて開発してきたことがDRPが生き延びた大きな要因と考えています。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  当初DRPは、特定顧客向けの半導体ASIC(Application Specific Integrated Circuit)に搭載されていましたが、現在では、より汎用的なマイクロプロセッサ向けの画像処理アクセラレータやモーター制御コントローラとして幅広い産業機器で使っていただいています。さらに、JSTやNEDOのご支援を頂いて、AIという膨大な計算量を必要とする新たなアプリケーションに適した形へDRP-AIとして進化しました。今後は、可変性がありながら低電力という特徴を活かして、様々な組込みシステムのAI化を進めることに貢献していきます。

藤井 太郎様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  メモリとロジック回路を密に組み合わせた新しいアーキテクチャを作るというコンセプトのもと研究・開発を行ってきた動的再構成プロセッサ(DRP)プロジェクトに対して、立ち上げ当初から携わることができ、そしてその成果がこのたび栄えある賞を頂けたことを大変うれしく思っております。チーム一体となって開発してきたものの成果であり、これまで開発に関わってきた多くのメンバーと喜びを分かち合うとともに、様々な面でプロジェクトを支えて頂いた多くの方々に感謝いたします。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  汎用性を持った新しい概念のLSIアーキテクチャを作り、使い易くするという技術的に難しい面も多々ありましたが、製品として世の中に出していくことに非常に苦労してきました。空間方向への展開による並列処理と時間軸方向の処理切り替えを組み合わせた新しい動作概念であるため、良さを理解してもらうことが大変でした。どこかに尖った性能を持つというよりは総合的にバランスのとれた良さを持つが故にアピールが難しかった点が挙げられます。しかし様々な例で性能・効果を実直に実証してきたことで、徐々に認めて頂けるようになったと考えております。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  新しい概念のアーキテクチャである点も挙げられますが、それを実際に使いやすい形にするための開発を常にチーム一体となって行ってきた点を挙げたいと思います。ハードウェアのみならず、ソフトウェア開発キット、高性能なアプリケーション実装といった開発を、異なる専門性を持つメンバーが一体となり、より良いハードウェア、開発ツール、アプリケーションにするため密に連携して開発してきたことが非常に大きいと考えています。アプリ開発者の視点に立ち、ハードウェアの性能を引き出す使い易い環境となるよう鍛えてきたからこそ、新しい概念のハードウェアを実用化できたと考えております。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  CPU処理のみでは性能が不足するが専用ハードウェアを開発するにはコストがかかりすぎるという課題が増える中、DSA(ドメイン固有アーキテクチャ)のような新しい考え方が必要とされてきています。その先駆けとして研究・開発・製品化を行ってきたDRPを搭載した製品が、解決策としてますます世の中に貢献できるようになっていければと考えております。また、アプリケーション開発者にとっては性能を引き出す工夫のしがいがあるという面白さを持っていると感じております。より多くの開発者の方に使い選んで頂けるよう、これからも進化をさせ続けていきたいと考えております。

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