第4回(平成16年度)山崎貞一賞 材料分野

自己再生型排ガス浄化用自動車触媒の研究と実用化

受賞者 受賞者
田中 裕久 (たなか ひろひさ)
略歴
1980年 3月 京都工芸繊維大学 工芸学部 無機材料工学科 卒業
1989年 2月 ダイハツ工業(株) 入社
1998年 7月 東京大学大学院 工学系研究科 工学博士号取得
2004年 3月 ダイハツ工業(株) 材料技術部 主査
現在に至る

受賞者 受賞者
上西 真里 (うえにし まり)
略歴
1993年 3月 京都工芸繊維大学 工芸学部 物質工学科 卒業
同年 4月 ダイハツ工業(株) 入社
現在に至る

受賞者 受賞者
西畑 保雄 (にしはた やすお)
略歴
1985年 3月 関西学院大学大学院 理学研究科 博士前期課程修了
1989年 7月 関西学院大学 理学博士号 取得
1997年 4月 日本原子力研究所 関西研究所 研究員
2004年 4月 同 サブグループリーダー
現在に至る

選考理由

 ガソリン自動車の排ガスに含まれる有害成分は炭化水素、一酸化炭素、それに窒素酸化物である。自動車触媒は炭化水素と一酸化炭素を酸化して無害な水と二酸化炭素に変えると同時に窒素酸化物を還元して窒素と酸素に変える働きをする。自動車触媒は1970年代に実用化され広く用いられてきたが、1990年代から全世界的に自動車排ガス規制が強化され、エンジン始動直後から排ガスの浄化が必要となったために、エンジン直下に搭載可能な耐熱性の高い触媒が求められるようになった。自動車触媒に使用される貴金属は白金・パラジウム・ロジウムの三種であるが、パラジウムはこれらの中で炭化水素を燃焼させる活性に優れるものの、最も融点が低く劣化しやすいので多量に必要とし、ここ10年で使用量が10倍にもなり使用量の大幅低減が強く叫ばれてきた。
 田中裕久、上西真里両氏はダイハツ工業(株)にて多年にわたり自動車触媒の研究に携わり、世界に先駆けてパラジウムを自己再生する排ガス浄化触媒の開発に成功した。西畑保雄氏は日本原子力研究所に所属し、大型放射光(SPring-8)を用いて新たに開発された排ガス浄化触媒の自己再生メカニズムの解明に多大の貢献をした。この触媒はインテリジェント触媒と命名され、従来とは大きく異なるメカニズムを有する排ガス浄化触媒である。従来の自動車触媒はアルミナやセリア・ジルコニア複合酸化物のような比表面積の大きいセラミクス粒子の表面に三種の貴金属を分散させ、これをハニカム担体にコートした構造である。この構造では貴金属粒子が高温下で移動し互いに接触して粒成長を起こし120ナノメートルレベルにも増大する。これにより排ガス浄化に必要な活性が減少し、劣化が起こる。インテリジェント触媒ではパラジウムがイオンとしてペロブスカイト・セラミクスの結晶構造に入り込んだ状態で存在し、排ガス浄化が行なわれる。インテリジェント触媒の排ガスの自然な酸化還元変動により析出したパラジウム粒子は1−3ナノメートルの大きさであり、上記の増大したパラジウム粒子に比べ極めて小さく、自己再生によって再度セラミクス結晶中に固溶する。この自己再生サイクルは実用上問題のないレベルで十分な耐久性を保つことが実車によるテストで確かめられ、2002年にダイハツムーブに搭載された。現在、製造は月産47,000台のレベルで推移している。このインテリジェント触媒は、平成17年排ガス規制レベルよりも有害物質を75%低減できることが認められ(SU-LEV)、これを搭載した軽自動車も2004年始めから販売している。
 インテリジェント触媒の自己再生メカニズムは2002年7月に科学誌ネイチャーに掲載された。また、新触媒に関して5件の主要特許が取得されている。この技術は貴金属の使用量を70 %低減しても従来の触媒と同等以上の触媒性能を発揮でき、貴金属消費の大幅低減と安定供給に貢献できる。さらにこの触媒は、医薬合成プロセスへの応用でも高性能・長寿命であるので多方面への利用が期待されている。

研究開発の背景

 世界的な排ガス規制強化に伴い、自動車触媒に使用される貴金属の需要は急激に増加してきた。中でも低温からの排ガス浄化活性に優れるパラジウムはここ10年で10倍以上となり他の需要に対し大きな影響を与え、使用量の大幅な削減が社会的な使命となっていた。この課題を解消すべく、世界で初めて貴金属が自己再生することにより、最小限の貴金属使用量で浄化性能を維持し続ける排ガス浄化触媒を開発し実用化した。

業績内容

 全く新しい概念を持つこの触媒は、インテリジェント触媒と名付けられた。ABO3型の原子配列を持つペロブスカイト酸化物の結晶中にパラジウムをイオンとして配位することにより、特別なエンジン制御などを必要とせず、自動車排ガス中で自己再生する能動的な機能を与えるものである(図1)。
 従来触媒は、活性点である貴金属が使用途中にセラミクス表面で肥大化し、活性は劣化し続け、これを補うため多くの貴金属量を必要としていた(図2)。従来は、触媒は表面反応であるため、貴金属を排気ガスと接触しにくいコート層内部に分散するだけでも活性を損なうものと考えられていた。まして貴金属を複合酸化物として結晶中に配位することは、活性を失い貴金属を無駄にすると思われていた。インテリジェント触媒は、結晶中へ固溶させた貴金属が排ガス中の自然な酸化還元雰囲気変動を利用し、析出・固溶を繰り返すことにより、貴金属を微細に保ち、優れた性能を自動車の生涯において維持する。この自己再生メカニズムは、SPring-8を用いた研究によって解明し2002年7月11日号の科学誌ネイチャーに発表、各国の注目を集めている。

図1.パラジウム(Pd)の自己再生時の結晶
図2.貴金属の粒成長比較
 

実用化にあたり、環境負荷への配慮からコバルトを除外した新組成(LaFePdO3)のインテリジェント触媒を開発した。さらに自己再生機能を効果的に利用する周辺技術を開発し、触媒設計に織り込んだ。
 平成14年10月発売の新型軽自動車よりこの実用触媒を搭載し、超低排出ガス基準(U-LEV:☆☆☆)認定を取得、平成16年1月からは新たに制定された(SU-LEV:☆☆☆☆)を取得した。常に国内で最も厳しい排ガス基準をいち早く達成し、既に70万台以上の搭載実績を持つ。貴金属の使用量を70〜90 %低減しても従来触媒同等以上の触媒活性を維持できる。
 田中は、ダイハツ工業(株)において触媒開発業務を立ち上げ、14年にわたる緻密な研究から、自己再生現象の発見、コンセプトの発案、実用化まで一貫して中心的役割を果たした
 上西は、開発初期の素材開発から最終段階の触媒設計まで全ての段階において実務を担当しコンセプト通りの性能を引き出した。
 西畑は、大型放射光(SPring-8)を利用し触媒試料の結晶構造および貴金属の電子状態から自己再生メカニズムを解明した。

本業績の意義

 本触媒技術は、貴金属をイオンとしてセラミクス結晶中に配位し、排ガスの自然な雰囲気変動により固溶・析出させることを特徴とする普遍的なものであり、今後の触媒設計の国際標準として期待される。この技術により触媒コストの大幅な削減が可能となり、自動車用途での貴金属需要の安定化に貢献できる。またこのインテリジェント触媒は医薬品合成プロセス等でも高性能・長寿命であることがわかり、他産業への応用も期待されている。

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