第7回(平成19年度)山崎貞一賞 材料分野
酸化亜鉛による新半導体機能発現
受賞者 | ||
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川崎 雅司 (かわさき まさし) | ||
略歴 | ||
1989年 | 3月 | 東京大学大学院 工学研究科 化学エネルギー工学専攻 博士課程修了(工学博士) |
同年 | 4月 | 日本学術振興会 特別研究員 |
同年 | 9月 | IBM社 T. J. Watson研究所 研究員 |
1991年 | 7月 | 東京工業大学 工業材料研究所 助手 |
1997年 | 4月 | 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 助教授 |
2001年 | 4月 | 東北大学 金属材料研究所 教授 |
同年 | 5月 | 産業技術総合研究所 強相関電子技術研究センター チーム長兼務 |
2007年 | 10月 | 理化学研究所 フロンティア研究システム 交差相関超構造チーム長兼務 |
同年 | 10月 | 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授 |
現在に至る |
授賞理由
亜鉛華とも呼ばれる酸化亜鉛(ZnO)は、鉛白(えんぱく)に代わる安全な白色顔料あるいは白粉(おしろい)として、近年多用されてきた。その粉末焼結体はバリスター、ガスセンサー、表面弾性波フィルタなどとして幅広く利用される電子セラミックスである。また、ZnOは広いバンドギャップ(3.37eV;368nm)を持つ、可視光を透過する透明な半導体であり、種々の元素をドープした薄膜は新しい透明導電膜として注目されている。
川崎雅司氏は、酸化物の高温超伝導以外の多様な機能に注目し、機能発現を可能にする精巧な結晶成長技術(レーザ分子線エピタキシャル成長(レーザMBE))の研究に取り組んだ。中でも、光機能材料としての可能性を秘めるZnOを研究対象として選択し、1994年から高品質薄膜の調製に挑戦し、1996年には励起子紫外レーザ発振を実現した。これはZnOの励起子エネルギーを利用した、極めて低い閾値を持つレーザ発振であった。
氏は真性ZnO半導体の更なる高品質化と紫外レーザの高効率化の研究を進める一方で、それまで多くの研究者が成功しなかったp型ZnOの実現に心血を注いだ。製膜にはパルスレーザ堆積(PLD)法を採用し、アクセプターとして選んだ窒素(N)をラジカル状態で供給し、基板温度を昇降させる「温度変調法」により結晶中に活性化させた。その結果、2004年にp-ZnO:Nを世界で初めて実現し、p-n接合素子による青色発光(LED)の確認と共に発表された。ZnOでp型半導体が実現したということは、窒化ガリウム(GaN)に比して低コストで環境に優しい青色LEDおよび白色LEDの実現、あるいは透明のCMOSトランジスターの開発が可能になり、「酸化物エレクトロニクス」の世界を一段と現実に近づけることになった。
特に、演色性の高い純白色を実現するためには発光波長360 nmの紫外LEDが必要であるが、ZnOは(MgZn)Oとの超格子を形成することにより、350 nmより短波長の光を放出することが可能になる。現在、白色LEDの実用化に向けた開発がメーカとの共同研究で着実に進められている。製法はPLD法から量産性に適したMBE法に代わり、結晶成長は廉価なZnO単結晶を基板として使用することになり、p型半導体も電子注入効率の高いp-(MgZn)Oへと進化している。このように、コスト・性能共に改善の道を辿り、ZnO半導体は、次世代白色ダイオードあるいは照明用光源の主役に躍り出る準備が整いつつある。
以上の理由から、川崎雅司氏の『酸化亜鉛による新半導体機能発現』を第7回山崎貞一賞材料分野の受賞とする。
研究開発の背景
酸化物半導体の実用的な電子機能は、透明導電膜やバリスタなど受動機能が主流であり、能動的な電子機能を実証する材料的基盤が未整備であった。受賞者らは、酸化亜鉛のエピタキシャル薄膜を高品質化して、光励起による励起子散乱・超高効率室温紫外レーザ発振を1996年に実証し、酸化物半導体における光機能開拓の可能性を明確に示した。しかし、天然にはn型になりやすい酸化物の性質が実用化へ最も大きな課題であった。
業績内容
受賞者によるレーザ発振の成功は、酸化亜鉛の紫外固体光源としての可能性を明確に示したため、世界中でp型酸化亜鉛の合成と発光ダイオード(LED)の開発に関する活発な研究が展開された。直後から、p型化に成功したと主張する発表が相次いだが、再現性やホール効果による評価技術の問題などが指摘され、またpn接合によるLEDの作製に成功した例がなく、分野全体が悲観的なムードに包まれた。受賞者は、p型へ価電子制御するためにアクセプターを闇雲にドーピングするのではなく、n型になってしまう点欠陥由来のドナーを極力抑制し、どこまで真性半導体としての性質を極めることができるかに注力した。その結果、残留電子濃度が1015 cm-3以下、電子移動度が400 cm2/Vsを達成し、これまで最も真性な半導体とされた気相合成バルク単結晶酸化亜鉛をはるかに凌ぐ電子物性を実現した。
さらに、アクセプターをドープする新しい手法を開発した。酸化亜鉛の酸素を窒素で置換するのがp型化に最適と考えられていたが、窒素は蒸発しやすいために結晶薄膜中に混入するのが困難であった。薄膜成長温度を低くすると何とか混入できるが結晶性が著しく劣化する。結晶性を高めようと成長温度を高くすると全く窒素が混入できないというジレンマがあった。受賞者は、成長温度を高速に繰り返して上下することで、窒素を十分に混入させつつ結晶性を高く保つプロセスを考案し、実際にp型酸化亜鉛を初めて合成した。酸化亜鉛pn接合から、肉眼で青い発光が確認され、分光特性から紫外発光も実証された。
本業績の意義
本研究成果は、半導体研究者に酸化物の可能性を強烈に印象づけた。実際、2004年暮れにWeb公開されたNature Materials 論文は数多く引用され、Thomson社Hot Paper統計では材料科学分野で世界第一位となった。材料科学の観点からは、まず、d軌道が関与しない酸化物で初めてのp型伝導を実証した点が意義深い。価電子帯は主に酸素の2p軌道から構成されるが、金属のs軌道との混成で正孔伝導が可能になることを初めて示したため、酸化物半導体の応用に向けた研究を先導したと言える。また、酸化物半導体の欠陥生成を究極まで抑制する戦略や、価電子制御に対する不純物ドーピングとその活性化に関する新しい手法を提案しており、今後の実用化研究においても貴重な指針となる。
一方で、実用的な見地からは、固体照明用紫外LEDにもう一つの選択があることを明示した点で意義深い。窒化ガリウムによる青色LEDと、黄色発光体と組み合わせた白色LEDはそれぞれ実用化され人間社会に広く浸透しており、2010年の市場規模は1兆円に達する。盤石にも見える発展であるが、原料のインジウムやガリウムの資源的な問題や価格不安、現状の白色LEDには緑や赤の成分が乏しく照明には不適切、格子整合しないサファイア基板を用いるために470 nmの青色では効率がよいが演色性の良いLEDが可能な紫外領域では発光効率が急速に劣化する、などの問題点がある。酸化亜鉛紫外LEDは、これらの問題点を一気に解決する可能性のある材料として注目されている。大型酸化亜鉛単結晶やヘテロエピタキシーによる紫外発光の高効率化と量子効果による発光波長の短波長化などの材料技術が整っているからである。受賞者の研究成果により、正孔濃度を現状の1017 cm-3から1桁程度の増大と、Mgを添加した酸化亜鉛のp型化技術の確立が次なる技術課題として明確になった。
