第8回(平成20年度)山崎貞一賞 材料分野

オレフィン重合新触媒の開発とポリオレフィン新材料の創製

受賞者 受賞者
藤田 照典 (ふじた てるのり)
略歴
1982年 3月 北海道大学大学院 理学研究科 修士課程修了
同年 4月 三井石油化学工業(現三井化学) 入社
1988年 12月 PhD(フランス国家博士) 取得
2001年 7月 研究主幹(−2008年3月)
2005年 7月 触媒科学研究所長(現職)
2008年 4月 執行役員
現在に至る

受賞者 受賞者
三谷 誠 (みたに まこと)
略歴
1989年 3月 京都大学 工学部工業化学専攻 修士修了
同年 4月 三井石油化学工業 (現三井化学) 入社
1997年 3月 京都大学 工学研究科 工学博士取得
2005年 7月 触媒科学研究所 重合触媒技術 ユニットリーダー
現在に至る

授賞理由

 ポリエチレンやポリプロピレンで代表されるオレフィン系高分子は我々の日常生活には欠かせない材料であり、各種の食品包装・生活用品からガソリンタンク等の自動車部品まで幅広く用いられている。そのようなポリオレフィンの有用性は、安全かつ安価でありまた材料としての機能が多様性に富んでいることにもとづいている。
 本授賞対象業績はこのオレフィン高分子合成に画期的な機能を持つ新触媒「フェノキシイミン錯体触媒」の開発とそれを用いた新材料創製である。歴史的には1950年代に開発されたZiegler-Natta触媒によってポリオレフィンが多量に合成され実用化された。1963年ノーベル化学賞の対象であるこの触媒系はZiegler の発見したAl(C2H5)3-TiCl4で代表される不均一系触媒である。その後均一系4族メタロセン触媒の登場により触媒機能が向上した。本授賞対象である「フェノキシイミン」はヘテロ原子[O-,N]配位4族遷移金属オレフィン重合触媒(ポストメタロセン触媒)であり、そのエチレン重合活性はメタロセンを凌駕するとともに、従来の触媒では合成困難なポリオレフィン材料の創製を可能とした。この成果は、それまで金属に着目していた触媒設計の基本を見直し、従来脇役であった配位子に注目し「配位子を主役とする触媒設計」という発想転換に基づいている。これはHOMOとLUMOのエネルギー準位の間隔が小さい非対称的な構造を持つ配位子がもつ高い電子授受能力に注目した結果である。この新触媒は助触媒の選択肢は広く、生成ポリマーの分子量やポリマー末端構造の制御の高度化および高いエチレン選択性に伴う分岐の全くない直鎖状ポリエチレンの合成、さらにはエチレン/極性モノマー共重合等が可能となるなど、「フェノキシイミン」開発の波及効果は極めて大きい。
 以上の理由から、藤田照典・三谷誠両氏の『オレフィン重合新触媒の開発とポリオレフィン新材料の創製』を第8回山崎貞一賞材料分野の受賞とする。

研究開発の背景

 ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)に代表されるポリオレフィン材料は軽量かつ安価な上に、優れた物性と加工性をあわせもつ有用な材料である。
 現在これらの材料の大半は不均一系チーグラー/ナッタ触媒およびメタロセン触媒(カミンスキー触媒)を用いて製造されている。近年、ポリオレフィン材料に対する要求物性や機能が多様化・高度化してきており、これらのニーズに対応できる新材料が創製可能な高性能触媒の開発が望まれていた。

業績内容

 藤田氏らは「金属を中心に考える」従来の触媒開発とは対照的な「配位子を主役とする触媒設計(Ligand Oriented Catalyst Design Concept)」という新しい手法を用い、世界最高のエチレン重合活性を示す前周期遷移金属のフェノキシイミン錯体「フェノキシイミン錯体触媒(FI触媒:エフアイ触媒)」を開発した(図1)。 FI触媒のエチレン重合活性はメタロセン触媒を凌駕し、その触媒回転効率(TOF)は最高65,000/sec/atmに達した(常温・常圧で1秒間に65000個のエチレンを重合する)。このTOF値はオレフィン重合の新記録であると同時に酸化反応、還元反応、アルキル化反応などこれまでに知られている全ての触媒反応の中でも最高レベルの値である。

図1.FI触媒の構造と特徴

 FI触媒は超高活性であることに加え、以下5つの特徴をもっている。 /媒設計の自由度(触媒構造の多様性)が大きい異性体の混合物として存在しかつ相互に変換可能である助触媒の選択肢が広いこ萓種の配位不飽和度が高いデ朧婿劼旅渋い鬟侫Д離シイミンからフェノキシアミンに変えることができる。
 これらの特徴からFI触媒はチーグラー/ナッタ触媒やメタロセン触媒では実現できないユニークな触媒作用を示すことができる。FI触媒のこれらの触媒作用は広範な構造をもつポリオレフィン材料の高効率合成を可能とした。

本業績の意義

 FI触媒の開発によりユニークな触媒作用が実現されるとともに既存触媒では合成が困難であった種々の新しいポリオレフィン材料の創製が可能となった。
 例えば、FI触媒により連鎖移動反応の精密制御が可能となり、その結果、片末端に選択的に二重結合を持つPE、世界最高レベルの分子量をもつ超高分子量PEやエチレン/α-オレフィン共重合体などの合成が可能となった。
 また、FI触媒はα-オレフィン、環状オレフィンや極性モノマーなどに対し特異的な共重合性を示す。この特異共重合性はエチレンとα-オレフィンの混合系からの選択的PE合成(高エチレン選択性)およびエチレン/ノルボルネン交互共重合体、エチレン/酢酸ヘキセニル共重合体(極性モノマー共重合体)などの製造を可能とした。
 さらに、フッ素化されたFI触媒の高度に制御されたリビング重合性能により世界に先駆けてエチレン、プロピレンおよび高級α-オレフィンから種々の単分散テレケリックポリマーやポリオレフィンブロックコポリマーの創製に成功した。
 一方、FI触媒は「異性体の混合物として存在しかつ相互に変換可能である」という特徴から、制御された分子量分布をもつ多峰性PEやC2対称であるにもかかわらず世界最高レベルの高融点をもつシンジオタクチックPPが合成できる。
 FI触媒の開発によりMAOやボレートが不要な高性能錯体触媒が実現した。すなわちMgCl2はFI触媒の担体になるとともに助触媒としても働き、その結果、MAO・ボレートフリー担持型高活性シングルサイト触媒となる。この担持触媒技術により高嵩密度の真球状PE粒子などのポリマーモルフォロジーが高度に制御されたPE粒子の製造が可能となった。
 一方、先述の片末端二重結合PEの二重結合にエポキシ基、ジヒドロキシ基、アミノ基などの官能基を選択的に導入することにも成功し、これらの官能基化PEを原料としてPE/ポリエチレングリコールブロックコポリマーに代表される種々のPE/極性ポリマー複合材料を創製した。
 FI触媒技術をベースとして創製されたこれら新材料は既存ポリオレフィン材料とは差別化された物性をもち、そのいくつかは工業化のステージに入りつつある。

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