第16回(平成28年度)山崎貞一賞 材料分野

新規ガーネット型シンチレータ結晶の開発と大学発ベンチャー企業による実用化

受賞者 受賞者
吉川 彰(よしかわ あきら)
略歴
1997年 6月 東北大学金属材料研究所 助手
2003年 10月 東北大学多元物質科学研究所 助教授
2007年 10月 伊国 ミラノ・ビコッカ大学 客員教授
2008年 12月 仏国 リヨン1クラウドベルナール大学 客員教授
2011年 4月 東北大学金属材料研究所 教授
東北大学未来科学技術共同研究センター 教授
2012年 11月 株式会社C&A 代表取締役CEO
現在に至る

受賞者 受賞者
鎌田 圭(かまだ けい)
略歴
2005年 4月 古河機械金属株式会社 素材総合研究所 研究員
2006年 3月 東北大学大学院
工学研究科材料加工プロセス学専攻
博士課程後期 修了
2012年 11月 株式会社C&A 代表取締役社長
2013年 4月 東北大学未来科学技術共同研究センター 准教授
現在に至る

受賞者 受賞者
庄子 育宏(しょうじ やすひろ)
略歴
2000年 3月 国立宮城工業高等専門学校 材料工学科 卒業
2002年 4月 株式会社福田結晶技術研究所 研究員
2007年 4月 株式会社福田結晶技術研究所 主任研究員
2010年 2月 スマートソーラーインターナショナル株式会社
技術課長
2012年 11月 株式会社C&A 単結晶事業部 事業部長
現在に至る

授賞理由

 放射線検出器はシンチレータと受光素子で構成されている。その主要部品であるシンチレータは医療、工業、農業ならびに科学の分野で広く応用されている。そのシェアは海外企業が大半を占め、国内企業の活躍する場は少なかった。
 吉川彰氏、鎌田圭氏、庄子育宏氏はバンドギャップ制御による材料設計に基づいて世界最高特性を有するCe添加Gd3Al2Ga3O12(GAGG)シンチレータを2010年に開発した。その特性は従来の材料であるTl:NaIの1.5倍の発光量、三分の一倍の短い蛍光寿命、662KeVで5%の高いエネルギー分解能である。材料開発後、ベンチャー企業を起業し、リサイクル可能で低コストで作れる大型単結晶作製技術、量産化技術、BaSO4を用いた微細シンチレータアレイ作製技術等を開発し、シンチレータ事業を拡大してきた。これにより小型放射線測定器であるサーベイメータ、食品放射能検出器、ガンマカメラ等の放射線検出機器の事業化を通じて、安心・安全な社会の実現に貢献した。更に、シンチレータが国産になったことで、国産の受光素子と組み合せて国産の放射線検出器·医療画像装置等の開発が国内企業で活性化し始めている。高性能医療画像装置に加え、放射光施設のセンサーとして高エネルギー物理分野等への社会貢献も国内外において期待できる。
 以上の理由により、吉川氏、鎌田氏、庄子氏の三氏を第16回山貞一賞材料分野の受賞者とする。


研究開発の背景

 放射線計測は世界的に医療、セキュリティ、資源探査、基礎科学等において近年とみにその重要性が高まっており、シンチレータの応用分野は高エネルギー物理学、医療、工業、農業等、多岐に渡り、シンチレータ結晶自体の市場規模で〜1000億円、検出器で約3000億円、装置まで入れると数兆円という莫大な市場規模を有する。加えて我が国においては福島原発事故後の除染活動にも重要な役割を担う。放射線検出器はシンチレータと受光素子からなり、その特性は前段のシンチレータで決定されるため、高効率で高感度なシンチレータは重要である。しかしながら、現状は「欧米がシンチレータを開発し知財を確保し、中国で作って日本が輸入して国産の受光素子と接合して検出器として輸出し、欧米がデザインした装置に組込み、それを日本が輸入する」という構図に固定されており、我が国経済への貢献も少ないのが実情である。この構図を覆すべく、候補者は日本発の新規シンチレータとそれを用いた検出器、装置の開発に尽力することとした。

業績内容

 東北大学吉川、鎌田は、バンドギャップ制御によりシンチレータ特性を制御する材料設計指針の下、世界最高特性を有するCe:Gd3Ga3Al2O12(GAGG)シンチレータを2010年に開発した。更にGAGGの特性改善を進め、MgやCa等の微量元素添加を行うことで、バンドギャップ内に添加元素由来の特殊なエネルギー準位を発現させ、ガーネット構造特有の欠陥準位およびGd3+の4f4f準位を経由する長寿命成分を低減し、短寿命成分Ce3+5d-4f遷移の発光を増大させることで、蛍光寿命をCe:(Lu,Y)2SiO5(LYTO)に匹敵する40ns以下まで高速化することに成功した。(図1)

図1 Mg2+の共添加により特殊なエネルギー準位を発現させ、欠陥準位およびGd3+の4f4f準位を経由する長寿命成分を低減し、短寿命成分Ce3+5d-4f遷移の発光を促進する現象のモデル。
図1 Mg2+の共添加により特殊なエネルギー準位を発現させ、欠陥準位およびGd3+の4f4f準位を経由する長寿命成分を低減し、短寿命成分Ce3+5d-4f遷移の発光を促進する現象のモデル。

吉川、鎌田はGAGGを実用化すべく、大学で開発した材料を迅速に実用化することを基本理念として、2012年11月に庄子と共に大学発ベンチャーである株式会社C&Aを起業した。社長には大企業にて事業化経験を持つ鎌田が就任した。

 図2 3インチ径のGAGGバルク単結晶
図2 3インチ径のGAGGバルク単結晶

 ㈱C&Aでは単結晶事業部を設け、事業部長の庄子を中心に2インチ径、3インチ径のバルク結晶作製技術を開発し(図2)、それを技術移転することで、地域企業の既存インフラを活用したファブレスによるシンチレータ結晶製造体制を確立。世界最高解像度の微細シンチレータアレー作製技術も確立し、シンチレータ事業を拡大し、C&A社単体で、3.5億円の売上を達成している。国内外の研究機関、企業への販売を展開しつつ、産学連携を活かした装置開発も行い、サーベイメータ、食品放射能検出器、ガンマカメラといった原発事故対応放射線検出器の実用化に貢献。GAGGに関する市場規模は推定40億円と新規市場の創出に貢献している。装置への正式採用実績を基に、GAGGは自然放射能計測用シンチレータとしての国内から海外へも標準化が進んでいる。


本業績の意義

 シンチレータ分野においてはDorenbos等がS(エネルギー輸送効率)やQ(発光効率)を定義して、統計的にどのシンチレータが高発光量を示すかをまとめた研究が有名であるが、これは単に傾向をまとめたものであり、理想のシンチレータや特性可変のシンチレータの設計に具体的な指針を与えるものではなかった。一方、吉川、鎌田は「母材のバンドギャップと賦活剤準位を最適な相対位置に制御すれば、母材から発光中心への高効率のエネルギー遷移が可能となり、高効率シンチレータの創製が可能である」という設計指針の下に研究を進め、賦活剤(Ce)の準位と母結晶(Lu,Y,Gd)3(Ga,Al)5O12の価電子帯の相対位置がシンチレータの発光量に大きく関与していることをモデル化した。更にそれを進めて、Mg2+の共添加によりCe4+由来の特殊なエネルギー準位を発現させ、ガーネット構造特有の欠陥準位およびGd3+の4f4f準位を経由する長寿命成分を低減し、短寿命成分Ce3+5d-4f遷移の発光を促進する現象のモデルを提案した。
 モデルの提案に留まらず、モノを作って実証し、起業して、庄子と共に量産技術を開発し、事業化を成し遂げたところに本業績の意義があり、今後の展開も期待される取り組みである。


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