第1回(平成13年度)山崎貞一賞 計測評価分野

同軸型直衝突イオン散乱分光法の開発と材料最表面その場解析への応用

受賞者 受賞者
片山 光浩 (かたやま みつひろ)
略歴
1985年 3月 大阪大学 工学部 電子工学科 卒業
1986年 6月 大阪大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 
博士前期課程 中退
同年 7月 理化学研究所 研究員
1994年 11月 大阪大学 工学博士号取得
1995年 10月 大阪大学 講師
1998年 11月 大阪大学 助教授
現在に至る

研究の背景

 材料表面の物性の基礎的理解や半導体素子の開発などと関連して、材料表面の最外原子層の組成と構造を原子レベルでその場解析する重要性が増大している。特に、半導体素子開発の現場では、半導体表面上のヘテロエピタキシーを精緻に制御するうえで、エピタキシャル成長によって動的に変化しつつある半導体表面の組成と構造をリアルタイムで監視する必要性が高まっている。従来、このような目的に、反射高速電子線回折法(RHEED)が多用されているが、表面の元素分析が不可能であるなど、単一の手法で得られる情報はおのずから限られるので、これを補う新しい手法の開発が待ち望まれている。これらの要請に応えるため、材料表面の組成・構造解析法の1つである低速イオン散乱分光法(ISS)に着目し、同手法を発展させた、低速イオンをプローブとした新手法を開発した。

研究概要

 低速イオン散乱分光法(ISS)は、keV 程度の低エネルギーのイオンを用いるため、表面最外層にきわめて敏感な計測が可能であるうえ、動的に変化しつつある表面の組成と構造のリアルタイム同時計測が可能である。このようなISS の潜在能力を十分にひきだすため、ISSにおいて実験の散乱角を完全に 180°にとる特殊化を行った手法の開発に着手した。この場合、観測されるイオンは表面原子と直衝突(正面衝突)したものになるので、イオン散乱を通して各表面原子の中心を"見る"ことになり、原子配列の定量解析が容易になる。開発した手法は、プローブであるイオン源と表面で散乱された粒子のエネルギー分析器を同軸上に配置することにより、完全な後方散乱粒子の検出を実現したものであり、同軸型直衝突イオン散乱分光法(Coaxial Impact Collision Ion Scattering Spectroscopy; CAICISS)と名付けた。CAICISS の装置上の特徴は、180°後方散乱粒子検出器、同軸型配置、H行時間型エネルギー分析器を採用していることである。これにより、CAICISS 法は、(顱防縮未料叛と構造の定量解析が直接的に行なえる、(髻防縮眠爾凌堯10数原子層の解析が可能、(鵝防縮未任瞭暗過程のリアルタイム計測に適するという従来の手法では得られない優れた特徴を有している。
 さらに、CAICISS法を表面プロセスのその場計測法として発展させるため、(1) 飛行時間型弾性反跳粒子検出法(TOF-ERDA)との複合化による、表面水素の挙動とこれに伴う表面プロセスをその場計測する手法の確立、(2) 検出器の部分の差動排気による、10-4 Torr 程度までの気相雰囲気下でのその場計測装置の開発など、CAICISS法の高機能化(図1)を実現した。
 新規開発したCAICISS法の材料最表面その場解析における有効性を実証するため、同手法を半導体最表面の原子構造や薄膜成長過程のその場解析に適用した。半導体最表面の原子構造解析に関して、一例を挙げると、Si(111) 基板上のAgモノレーヤー薄膜の構造に対して提案したモデル(Phys. Rev. Lett. 66, 2762 (1991).)は、他の表面構造解析手法による殆ど全ての実験結果を説明しうる構造モデルとして合意が得られており、表面科学の長年の懸案であった表面超構造のひとつを解明したという意味で有意義であった。また、薄膜成長過程のその場解析においては、CAICISSによって成長表面の組成と構造をモニターしつつ、分子線エピタキシー(MBE)装置にリアルタイムでフィードバックをかけてヘテロエピタキシャル成長を自動制御する試みに成功した(Phys. Rev. B54, 8600 (1996).)。最近では、高機能化したCAICISS法を表面水素の挙動とこれに伴う表面プロセスのその場計測に適用し、TiO2(110) 清浄表面における自発的水素終端化現象(Appl. Phys. Lett. 79, 2716 (2001).)など、興味深い事実を見出している。

研究の展望

 1986年に提唱した同軸型直衝突イオン散乱分光法CAICISSは、その後幾つかの研究グループによって採用されるとともに、表面分析装置として製品化され、現在、世界で30台以上の装置が稼働しており、標準的な表面分析法のひとつとして普及しつつある。さらに、同手法の高機能化によって、表面水素量のリアルタイム測定、気相雰囲気下でのその場計測が可能となり、化学気相成長(CVD)など、水素が介在する材料創製プロセスのその場解析において広範な応用が期待できる。このように、同手法は、基礎研究レベルの表面・界面の評価のみならず、材料開発の広範な分野において表面プロセスをその場計測する手法として威力を発揮するものと考えている。

図1 高機能化CAICISS装置

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