第5回(平成17年度)山崎貞一賞 計測評価分野

スピン偏極走査電子顕微鏡の開発と応用

受賞者 受賞者
小池 和幸 (こいけ かずゆき)
略歴
1975年 3月 金沢大学大学院 工学研究科 
電子工学専攻 修士課程修了
同年 4月 (株)日立製作所 中央研究所 入所
1985年 4月 同 基礎研究所 研究員
1986年
〜87年
10月 独ユーリッヒ原子核研究所 客員研究員
2000年 11月 通産省工業技術院 産業技術融合領域研究所
主任研究官
2001年 4月 産業技術総研究所 強相関電子技術センター 
スピン計測チーム長
同年 10月 北海道大学大学院 理学研究科 理学部物理学専攻
教授
現在に至る

選考理由

 近年、磁気ディスク、光磁気ディスクなど磁気記録媒体の高密度化と磁気ヘッドの高性能化、垂直磁気記録などの新しい高密度磁気記録方式の開発、スピントロニクスを利用した新しい電子デバイスの開発などが活発に行われている。また、強相関電子材料やナノ磁性材料における新規な磁気物性の基礎科学的な研究が活性化している。
 この様な磁気物性に関する基礎研究や磁気記録材料の開発研究においては、磁化方向定量検出磁区観察を高分解能で行うことが必要であり、従来の磁気力顕微鏡に代わって高分解能スピン偏極走査電子顕微鏡(スピンSEM)が重要な役割を果たすものと期待されている。
 小池和幸氏は、このような背景から1984年世界初のスピンSEMを開発した。このスピンSEMは試料からの2次電子のスピン偏極度を利用して磁区観察を行うものであり、数ある磁区観察装置の中でも唯一試料の磁区方向を定量検出でき、試料の厚さ・形状、結晶性に対する制約がなく、極めて幅広い研究に適用可能である。同氏が開発した最初の装置の空間分解能は20μmであったが、その後も一貫して高分解能化を核とする性能向上のための開発研究と応用研究に従事している。その主な成果は、試料面内磁化ベクトルの2成分同時画像表示を可能とするスピン検出器の開発、試料磁場印可可能で分解能0.1μmの装置の開発、球面偏向電極を用いて2次電子の捕捉効率を大幅に高めると共にスピン検出器のさらなる改良による分解能5 nmの達成などであるが、さらに、高速スイッチング可能なスピン回転器により磁化ベクトル3成分同時検出を可能とすることにより世界最高性能を有するスピンSEMの開発に成功した。また、この装置に30Kまで冷却可能な試料ステージを付加して、種々の材料の基礎的な磁気特性を測定可能とした点も特筆に値する。
 同氏は、上述した装置開発と並行して磁性材料の基礎及び応用研究も行ってきた。特に、多重還流磁区構造の発見や、強磁性/反強磁性結合機構および磁性ナノ粒子アレイの磁気構造の解明などはいずれも先駆的かつ独創的業績として高く評価されると共に、磁気物性研究におけるスピンSEMの有用性を実証する成果となっている。
 以上同氏は、磁気記録の超高密度化やナノ磁性材料の開発に極めて大きな貢献が期待される世界最高水準の機器を開発すると共に、磁性材料に関する基礎並びに応用研究において種々の優れた成果を挙げた。したがって、同氏の業績は第5回山崎貞一賞に相応しいものと認め、本賞受賞者とする。

研究開発の背景

 情報化社会の進展に伴い、膨大な情報を高速に転送、処理、保存する手法が要求されている。このうち、保存においては磁気記録が大量の情報を高速記録・再生する手法として古くから使われており、記録のさらなる大容量化・高密度化の研究が盛んに進められている。また、磁性物理の分野においては、超薄膜、人口格子、ナノ構造体、強相関材料が示す新奇磁性に興味がもたれ、スピントロニクスを含む将来の工業応用も視野に入れた研究が活発化している。これらの研究を推進するにあたって、高分解能・定量磁区観察は必要不可欠である。磁区観察手法としては、1931年に開発されたBitter法に始まり、様々な方法が開発実用化されているが、分解能、定量性、試料に対する制約等を総合的に考えると必ずしも十分とは言えず、新たな観察手法の開発が望まれていた。

業績内容

受賞者は、強磁性体試料に電子線を照射すると、試料の磁化ベクトルと同方向の偏極ベクトルを有する2次電子が放出されることに着目し、受賞者等が我が国で初めて開発に成功した小型・高効率スピン検出器と走査電子顕微鏡を組み合わせ、1984年世界初の磁区観察用スピン偏極走査電子顕微鏡の開発に成功した。その後も受賞者等は装置の性能向上に努め、現在では5 nmの分解能、磁化方向の定量検出、30Kまでの低キューリー点試料観察等を可能としている。これらの性能はいずれをとっても世界最高を誇る。この間に開発した装置の性能(○)および代表的応用研究成果(●)は以下の通りである。 1号機(1984年、世界初)○分解能:20μm、磁化ベクトル:試料面内1成分検出、磁化情報と表面凹凸情報の同時・分離取得。 2号機(1985年)○分解能:0.2μm、磁化ベクトル:試料面内2成分同時検出、面内成分ベクトルマッピング。●表面ネール磁壁の実験的確認。ハードディスク記録媒体ノイズの原因究明。ハードディスク薄膜磁気ヘッドノイズの原因究明。磁性/非磁性多層膜に見られる新規磁区構造解明。弱い垂直磁気異方性を有する磁性体表面の多重還流磁区構造の発見。 3号機(1988年)○分解能:0.1μm、磁場印加:450 Oe、試料温度:室温〜130℃。●ハードディスク薄膜磁気ヘッドの磁化過程の解明。弱い垂直磁気異方性を有する薄膜の表面磁化がとる周期構造の実験的確認。 4号機(1994年)○分解能:20nm、磁化ベクトル:試料面内2成分同時検出とレンズ機能を有するスピン回転器開発による面直成分の検出。●光磁気記録媒体のノイズ源の解明。斜め磁気記録テープ媒体のノイズ源の解明。高密度ハードディスク記録媒体のノイズ特性解析。強磁性/反強磁性結合の機構解明。 5号機(2000年)○分解能:スピン検出器高効率化、小型2次電子収集電極開発によるワーキングディスタンス短縮により5nm達成。磁化ベクトル:1画素ごとのスピン回転器オン・オフによる3成分同時検出。試料温度:専用試料ステージ開発により、30〜400Kを達成。●キューリー点が100K近傍のぺロブスカイト型層状強相関磁性材料の磁気構造の解明。磁性ナノ粒子アレイの磁気構造の解明。


本業績の意義

 スピン偏極走査電子顕微鏡は、々睚解能である、⊆Р愁戰トル方向の定量検出ができる、3次元的な表面構造を持つ試料でも、表面形状像と磁区像を分離かつ同時に取得できる、ご兒[琉茲離瀬ぅ淵潺奪レンジが数mm〜数百nmと広い、試料が金属であれば表面の結晶性は問題にならない等優れた特徴を有する。今後、高密度磁気記録等の工業的応用分野はもちろん、新奇材料やナノ構造体・超薄膜・人工格子等の基礎磁性研究分野においても、強力な計測装置として威力を発揮することが期待される。

写真

↑このページの先頭へ