第12回(平成24年度)山崎貞一賞 計測評価分野

フォトルミネッセンスによる半導体結晶計測評価法の開発と標準化

受賞者 受賞者
田島 道夫 (たじま みちお)
略歴
1975年 3月 東京大学 工学系研究科 博士課程 修了
同年 7月 通産省工業技術院 電子技術総合研究所 入所
1989年 3月 文部省 宇宙科学研究所 助教授
1992年 10月 文部省 宇宙科学研究所 教授
2000年 4月 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 研究主幹
2011年 3月 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 定年退職
同 名誉教授
2012年 7月 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授
現在に至る

授賞理由

 田島道夫氏は、1978年、レーザー光を用いたフォトルミネッセンス法によりSi結晶中の不純物起因の発光のSi固有の発光に対する強度比が不純物濃度にほぼ比例して増大することを見出したこの手法はそれまで一般に用いられていた赤外線吸収法と比較して、感度、空間分解能共に2桁以上高い画期的なものであった。特に検出感度については原子比で80ppq(8×10-14)という驚異的な値を示した。
 氏はさらに、この手法の標準化を目指して、世界規模のラウンドロビンテスト(多数の試験機関に同一試料を回して評価する共同作業)を企画・実施して、国内標準(JEIDA-45規格)は元より世界的に権威のあるASTM F1389-92規格「Standard Test Methods for Photoluminescence Analysis of Single Crystal Silicon for -Impurities」の制定を実現した(1992年)。幸い田島氏を中心とする関係者の尽力により、この評価法は1996年に国内ではJIS H0615としてさらには国際規格SEMI MF 1389-0704として広く半導体製造における評価基準として活用され現在に至っている。
 また、本手法はSiのほかに、GaAsさらにはパワーデバイス用として注目されているSiC等の半導体結晶中の評価にも拡張されている。 顧みると我が国は多くの工業分野において、EUを中心とする国際標準化戦略と米国の特許戦略により苦戦を強いられてきている。半導体産業も例外ではない。その中にあって田島氏が展開した、関連特許の取得さらには国際標準化への戦略は正に先端計測評価技術の指標であるといっても決して過言ではない。
 以上の理由により、田島道夫氏を第12回山崎貞一賞計測評価分野の受賞者とする。

研究開発の背景

 今日の電子産業を支えている中心的素材はシリコン(Si)単結晶であり、その製造にあたっては、残留する不純物が原子比で100ppt(100億分の1)以下の超高純度原料が必要とされる。そのような極微量の不純物計測評価手法としては、従来、赤外吸収法が用いられていたが、測定試料を10mm程度に厚くしてやっと測れる程度の性能であった。これに対し受賞者は、レーザー光を用いたフォトルミネッセンス(PL)法により、わずか数100μmの厚さの試料で、0.1ppt(10兆分の1)の不純物を検出し、その濃度を決定できることを実証した。
 さらに受賞者は、この手法が結晶欠陥評価にも有効であることを示し、高速デバイス用GaAs結晶、次世代LSI用基板として注目されている極薄SOIウエハー、そして低損失パワーデバイス用として大きな関心を集めているSiCウエハーの欠陥評価を行うため、独創的な装置を次々と開発した。最近では、太陽電池基板用の多結晶Siウエハーの欠陥評価に向けて新しい手法を発明し、画期的技術として注目を集めている。

業績内容

受賞者は、「Si は間接遷移型半導体であり、発光は微弱となるため計測評価には使えない」という当時の常識を覆し、レーザー光束を利用した試料位置調整法の発案等により、再現性良くSiからのPLを測定することに成功した。図1は、超高純度Si結晶からのPLスペクトルで、ppt(1兆分の1)オーダーの不純物であるホウ素(B)やリン(P)が明瞭に観測されている。そして、不純物起因の発光のSi固有の発光に対する強度比が、不純物濃度にほぼ比例して増大するという発見に基づいた不純物定量法を発明した。BおよびP不純物に対するこの関係が図2に示されており、検量線として用いられている。受賞者は、世界的規模の試料持ち回り測定を企画・実施し、さらに各不純物に対する標準試料を作製し、世界中の主要機関に頒布することにより、標準化を達成した。この手法は、世界的に最も権威のある米国測定材料標準(ASTM)に、我国独自の技術としては初めて正式登録され、その後JIS規格(JIS H0615)、SEMI規格(MF1389-0704)にも採用された。

図1 高純度Si結晶のPLスペクトル
図1 高純度Si結晶のPLスペクトル
図2 PLによるSi中不純物定量法の検量線
図2 PLによるSi中不純物定量法の検量線

 続いて、半導体物理学において未開拓の分野として残されていた欠陥に起因する深い準位のPLに着目し、その解析から欠陥の起源を解明するとともに、半定量分析を行えることを実証した。赤外領域PL励起スペクトル測定法、室温PLウエハーマッピング法、そして紫外線励起凝縮ルミネッセンス法の開発により、半絶縁性GaAsウエハーおよび極薄SOIウエハーの高精度かつ高速の欠陥評価が実現した。これらの技術は、ワイドギャップ半導体SiCウエハーの評価にも展開され、転位や積層欠陥などの構造欠陥を非破壊で高速・高分解能下で検出できることが明らかにされた。図3は、PLマッピングによりSiCウエハーの欠陥分布を調べた結果で、マイクロパイプや転位がはっきりと捉えられている。

図3 高空間分解PLマッピングによるSiCウエハーの欠陥分布の可視化
図3 高空間分解PLマッピングによるSiCウエハーの欠陥分布の可視化
図4 多結晶Si基板の欠陥分布 (a)マイクロ波光伝導度減衰法 測定時間 20分 (b)HF液浸PLイメージング法 測定時間 0.1秒
図4 多結晶Si基板の欠陥分布 (a)マイクロ波光伝導度減衰法 測定時間 20分
(b)HF液浸PLイメージング法 測定時間 0.1秒

 さらにまた、太陽電池基板用の多結晶Siウエハーの品質評価に対し、ウエハーを弗酸に浸した状態でPLイメージングを行うことにより、超高速化を図る手法を発明した。従来法のマイクロ波光伝導度減衰法による測定との比較では、図4に示すように、分解能で10倍以上の向上、測定時間で3桁以上短縮という革新的な性能を実現させた。

本業績の意義

 Si結晶の不純物定量計測評価法は、物性物理学に大きな学術的影響をもたらすと同時に、半導体産業界に極めて大きなインパクトを与えた。当時の従来手法に比べて、検出感度が2桁以上向上するという画期的な性能を有していたため、主要シリコンメーカーで直ちに採用され、国際標準として定着した。この技術は発明以来現在に至るまで、30年以上に亘り世界中で使用され続けている。また、GaAsウエハー、SOIウエハー、SiCウエハー、そして太陽電池用Si多結晶基板等、現在の他の主要な半導体結晶の評価に対しても、次々にPLを利用した革新的な手法が発明され、ライセンス契約の下に製造された評価装置は、国内外の研究機関、結晶メーカー、デバイスメーカーに急速に普及した。以上の実用化に直結した多大の創造的な研究業績は、半導体材料の高品質化に大きく貢献している。

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