第15回(平成27年度)山崎貞一賞 計測評価分野

電子顕微鏡用軟X線分光器の開発と実用化

受賞者 受賞者
高橋 秀之(たかはし ひでゆき)
略歴
1980年 3月 千葉大学工学部分析化学講座 卒業
1980年 4月 (株)巴組鉄工所 入社
1986年 10月 日本電子蠧社 表面分析応用研究職
1997年 9月 大阪大学大学院工学研究科 博士取得
2011年 4月 日本電子(株) EM事業ユニット 副ユニット長
2014年 4月 日本電子(株) SA事業ユニット 専任理事
現在に至る

受賞者 受賞者
寺内 正己(てらうち まさみ)
略歴
1984年 3月 東北大学理学部物理学科 卒業
1988年 11月 東大学大学院理学研究科
博士後期課程修了(理学博士)
1990年 2月 東北大学科学計測研究所 助手
1995年 12月 東北大学多元物質科学研究所 助教授
2001年 4月 東北大学多元物質科学研究所 助教授(改組)
2002年 10月 東北大学多元物質科学研究所 教授
現在に至る

受賞者 受賞者
小池 雅人(こいけ まさと)
略歴
1979年 3月 大阪市立大学大学院工学研究科
後期博士課程修了(工学博士)
1989年 1月 (株)島津製作所 光学デバイス部技術課 課長
1991年 1月 米国Lawrence Berkeley国立研究所物質科学研究部門Staff Scientist
1997年 4月 日本原子力研究所関西研究所 主任研究員
2008年 4月 独立行政法人日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門
光量子科学研究ユニット ユニット長・研究主席
2012年 4月 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センター 嘱託・主任研究員
現在に至る

授賞理由

本件は、

  1.  わが国において主導的に研究開発された収差補正型回折格子の分散特性を生かして回折格子を固定して、検出器にCCDを採用することにより、従来のような分光器(回折格子)と検出器をローランド円上を移動させるなどの移動機構を全くなくして軟X線分光を実現したことはX線分光史上特筆に値する。
  2.   この分光システムを搭載した世界初の軟X線マイクロアナライザーの製品化に成功し、既に15台を出荷している。なかでもLi-ΚαX線を検出することにより懸案となっていた、リチウム電池内のリチウム分子の挙動を解明する上で最も有用な分析手段を提供するなど、すでに官・民の研究機関で広く活用されている。

以上の理由により、盒胸瓠∋内氏、小池氏の三氏を第15回山貞一賞計測評価分野の受賞者とする。

研究開発の背景

 電子顕微鏡は90年近くの歴史を持ち、微小領域の観察・分析により多くの分野の研究開発に多くの貢献をしてきた。顕微鏡本体の開発は国産でも、その分析にあたっては元素分析、構造解析、状態分析などの目的でエネルギー分散形分光器(EDS)、波長分散形分光器(WDS)、電子エネルギー損失分光器(EELS)など多くの分光器が開発されてきたが、いずれも欧米による考案・開発による。現在利用されているWDSは分解能、P/B比、定量性は良いが、エネルギー走査に時間を要する。また、EDSはこの点パラレル検出で高速であるが分解能が一桁劣る。一方、軟X線分光研究の分野では回折格子開発などで我が国において長年高度な技術開発が進められてきた。こうした背景で我が国独自のX線分光器の作製・開発が期待された。1983年に喜多らはX線レーザー、プラズマ診断等の軟X線光源研究に資するため、波岡 からの設計指導を得て、予てから開発した機械刻線による不等間隔溝球面回折格子を用い複数の特性X線を同時に分光計測できる平面結像型の軟X線分光器を開発した。

業績内容

2000年寺内らはこの分光器を世界で初めて透過型電子顕微鏡に搭載し、AL-L端において0.3eV以上のエネルギー分解を得た。しかし、一枚の回折格子でカバーできるエネルギー領域は狭く、基礎研究や実用目的の装置とするためには一つの分光器においてエネルギー領域ごとに最適化された複数の回折格子を装着・交換し、エネルギー領域を拡張する必要があった。このため、2002年から東北大学と日本原子力研究所(原研、現日本原子力研究開発機構(原子力機構))は共同研究を開始した。原研が非球面波ホログラフィック露光法に基づき設計した2枚の不等間隔溝球面回折格子を島津製作所が製作し、70〜2000eVの広い領域での測定が可能となった。引き続き、2008年から日本電子、東北大学、原子力機構、島津製作所が商用機開発を目指したプロジェクトが立ち上がった。分光器設計、回折格子設計・評価は原子力機構、回折格子製作は島津製作所、試作回折格子・分光器評価は東北大学、商用分光器及びシステム開発は日本電子が担当した。そこで、従来の分光法では測定が困難であった54eVのLi-K発光から3.8keVのTe-L発光まで測定可能なように、4枚の回折格子を1つの分光器で使用できるように回折格子の最適設計を行い、光学機械系としてはP/B比の向上、感度向上を目指した。またソフト系ではアプリケーションソフト開発なども重点を置いた。現行の商用機(SXES)では、2枚の回折格子を搭載しており、約50eVから210eVの範囲で分光が可能である。また、最近は加速電圧が数百ボルト程度から観察が可能となったため、マッピングにおいて数nmの空間分解での測定が可能である。その結果、Li-KやMg-Lといった従来困難であったマッピングが高感度かつ高エネルギー分解で得られ、先端材料の評価には欠かせない計測法の一つとなった。例えばLi-Kにおいては充電量に応じて低エネルギー側のLi-Kサブピークが増大することを見出すなど、金属特有の54eVのピークとともにその分布は電池に特性評価に寄与している。またMg-Li合金における組織状態、鉄鋼中や強磁性材料中の微量超軽元素の検出・評価、高分子材料の微小領域での各種成分の状態の違いも評価可能になった。

EPMAに搭載したSXES
EPMAに搭載したSXES

本業績の意義
Li合金マップとスペクトル例(提供:熊本大学 河村能人教授 山本倫昭 准教授)
Li合金マップとスペクトル例(提供:熊本大学 河村能人教授 山本倫昭 准教授)

 本研究開発は、金属、高分子、磁性材料など現在わが国が取り組むべき先端材料の評価・研究開発に対して、今後の素材の高度化開発には不可欠な評価技術を提供することとなった。さらに、低加速電子線励起による質量吸収係数測定など物理パラメータの精度向上への応用も議論されるに至っている。こうした基礎パラメータ研究との連携も今後の分析手法の展開には不可欠であり、EBSD結晶情報や組成情報と併せて総合的な微小領域のキャラクタリゼーションがバルク試料でも行えることで電顕分析の大きな発展が期待されている。


↑このページの先頭へ