第21回(令和3年度)山崎貞一賞 計測評価分野

コンパクトX線自由電子レーザーSACLAの開発と応用研究への展開

受賞者
石川 哲也 (いしかわ てつや)
略歴
1982年 3月 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 修了
1983年 3月 高エネルギー 物理学研究所 助手
1989年 1月 東京大学工学部物理工学科 助教授
1995年 7月 理化学研究所 主任研究員
大型放射光施設 SPring-8のビームライン建設を統括
2005年 10月 同所 X線自由電子レーザー計画本部
プロジェクト リーダー
2006年 10月 同所 放射光科学総合研究センター(現 放射光科学研究センター) センター長
現在に至る

受賞者
田中 均 (たなか ひとし)
略歴
1982年 3月 東京工業大学
総合理工学研究科化学環境工学専攻 修了
1982年 4月 日揮株式会社 入社
1989年 9月 理化学研究所サイクロトロン研究室 入所
1999年 5月 財団法人高輝度光科学研究センター 入所
2016年 4月 理化学研究所 放射光科学総合研究センター
(現 放射光科学研究センター)副センター長
現在に至る

受賞者
矢橋 牧名 (やばし まきな)
略歴
1996年 3月 東京大学工学系研究科物理工学専攻修士課程 修了
1996年 7月 東京大学工学系研究科物理工学専攻博士課程 中退
1996年 8月 財団法人高輝度光科学研究センター 研究員
2003年 3月 東京大学 博士(工学)取得
2008年 4月 理化学研究所 X線自由電子レーザー計画本部
チー ムリーダー
2011年 4月 同所 放射光科学総合研究センター
(現 放射光科学研 究センター)グループディレクター
現在に至る

授賞理由

  受賞者らは、米・欧の計画に比べてコンパクトなX線自由電子レーザーSACLAを提案・開発し、国内外の様々なユーザーの利用に供することで、基礎研究から産業界における実用研究まで広範な利用研究の展開に貢献した。
  石川氏はSACLAのコンセプト着想段階からプロジェクトを主導し、田中氏とともにSPring-8やKEK で開発された新しい技術を援用した小型化を推進して、安定性に優れたX線自由電子レーザーの生成を実現した。SACLAの開発技術はスイス、韓国、中国等のX線自由電子レーザー施設に採用され、数百億円規模にのぼる産業インパクトに繋がっている。また矢橋氏とともにSACLAの優れたビーム特性(極短パルス幅、高いピーク強度)を利用できる環境基盤を整備し、照射パルス毎に測定部位を移しながら応答特性を取得する新たな計測法も確立した。この結果、世界初となる光合成を促進する光化学系IIタンパク質の構造・機能の「無損傷」での決定を初めとして、インパクトの大きい様々な科学技術的知見の創出に貢献した。
  以上の理由により、石川氏、田中氏、矢橋氏を第21回山貞一賞計測評価分野の受賞者とする。

研究開発の背景

  1960年代のレーザーの発明以来、赤外、可視光 から紫外の波長領域では、光のコヒーレンス性の活用が進展し、科学技術の躍進を支えた。さらに短波 長化を図りX線領域のレーザーができれば、原子・分子の世界にコヒーレント光で切り込むことが可能になると期待されていたが、このようなX線レーザーの実現は技術的に極めて困難であった。しかしながら、1970年代に提案された加速器を利用した自由電子レーザー(FEL)のコンセプトと、1980年代の自己増幅自発放射(SASE)機構の提案により、X 線領域のFEL(XFEL)の実現の可能性が高まり、1990年代にアメリカ、次いでドイツでXFEL設の建設計画が策定された。しかしながら、これらの 施設のスケールは数キロメートル級と非常に巨大なものであった。


業績内容

  受賞者は、大型放射光施設SPring-8で開発された新しい技術を援用することにより、XFEL施設が米・欧で計画されていたものの1/3以下の規模で実現できることを提案した。このコンパクトXFEL実現のために、2001年から試験研究を開始した。2003年度からは、プロトタイプ機としてSCSS試験加速器の整備を行い、極紫外(EUV)領域での実証実験に成功した。2006年度から、第三期科学技術基本計画の中の「国家基幹技術」として、コンパクトXFEL 施設SACLA建設が実施された。 SACLAの加速器では、熱駆動型電子銃により、高品質の電子ビームが生成され、高勾配C バンド加速器によって、8GeV まで効率よく加速される。この電子ビームは真空封止アンジュレータに導かれ、周期磁場中を蛇行し、強力なX 線レーザーが生成される。X線レーザーは、ビームラインに導かれ、様々な最先端の利用実験に供される。
  SACLAは、2011年3月に当初の計画通り完成し、僅か数か月の調整期間を経て、同年6月に初のX線レーザー発振を達成、その後直ちに世界最短波長の記録を更新した。2012年3月から共用運転に供されている。SACLAは、高いピーク輝度、短いパルス幅、優れたコヒーレンス特性をもち、かつ高い安定性を兼ね備えた光源として、現在までの述べ1万人以上の利用者に活用されており、世界をリードする研究成果が続々と生み出されている。
  本業績は、SACLAの建設と応用研究の展開を対象としており、数多くの研究者が関与しているが、その中でも受賞者は、開発・建設期から利用期に至るまで一貫してプロジェクトの取り纏め・統括に携わってきた。具体的には、石川は、コンパクト型X線自由電子レーザーのコンセプトを着想し、開発・建設プロジェクトを立ち上げ、全体統括を行なった。田中は、SCSS及びSACLA加速器のシステムの全体設計の取り纏めを行い、実利用における安定なX線自由電子レーザーの生成に最も貢献した。矢橋は、ビームラインを含む利用環境基盤の開発整備を統括し、利用成果の創出に最も貢献した。

本業績の意義

  SACLAは、先行して検討が進んでいた米・欧のX線自由電子レーザー施設とは異なる「コンパクトXFEL」というコンセプトを打ち出し、圧倒的な小型化を実現したものである。小型化によって、光源の安定性の向上のみならず、必要経費も米欧の競合計画と比較して半分以下に抑えられ、また建設期間も短縮された。これによって、XFELを利用したサイエンスを早期から展開することが可能となった。
  SACLAは、2012年3月の供用開始から現在に至るまで、国内・海外を合わせた延べ1万人超の利用者に対し、年間約6000時間のビームタイムを安定に供給している。世界的な研究成果として、光合成をつかさどるタンパク質複合体(光化学系II)の機能の解明、銅原子の内殻レーザーの実現などが広く知られている。さらに、最近では鉄鋼材料を超急速加熱したときの転位の瞬間的な観察に成功するなど、先端産業にも広く活用されている。
  SACLAのこのような特長は海外でもよく知られるようになり、いくつかの研究所がSACLA のコンセプトを踏襲したXFEL施設を建設した(スイス、韓国、上海軟X線)。これによって、我が国の加速 器コンポーネントの輸出拡大に大きく貢献した。
  また、SACLAは、第三世代放射光施設SPring-8と隣接して設置されており、高い相乗効果を生んでいる。施設運用の観点では、SACLA線形加速器で生成される高品質の電子ビームをSPring-8蓄積リングに移送するラインを整備した。これによって、老朽化した既存のSPring-8の電子ビーム入射器に替わって、SACLAが入射器としての役目を果たすようになり、運転コスト・老朽化対策コストの大幅な削減を達成しながら、高品質の電子ビームの輸送を行なっている。

図 SACLAのアンジュレータホール

図 SACLAのアンジュレータホール


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