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第15回(平成27年度)山崎貞一賞 半導体及び半導体装置分野

環境中性子線による半導体ソフトエラー計測評価技術の開発と機器障害自動抑止

受賞者 受賞者
伊部 英史(いべ ひでふみ)
略歴
1975年 3月 京都大学理学部 卒業
1975年 4月 (株)日立製作所 原子力研究所 入所
1997年 8月 (株)日立製作所 生産技術研究所に転属
2011年 6月 定年退職
継続社員現在に至る

受賞者 受賞者
鳥羽 忠信(とば ただのぶ)
略歴
1983年 4月 (株)日立製作所 生産技術研究所 入所
2006年 10月 生産技術研究所 主任研究員
2013年 3月 長岡技術科学大学大学院 技術経営研究科
専門職修士課程(システム安全)修了
2015年 4月 研究所再編により現所属名称に変更
現在に至る

受賞者 受賞者
新保 健一(しんぼ けんいち)
略歴
1993年 4月 (株)日立製作所 生産技術研究所 入所
1997年 4月 日立京浜工業専門学院電子工学科研究科課程
(東京大学) 入学
1998年 4月 (株)日立製作所 生産技術研究所に復職
2015年 4月 研究所再編により現所属名称に変更
現在に至る

授賞理由

 1990年代後半、宇宙から地表に降り注ぐ環境中性子線によって半導体メモリのソフトエラー(一時的な誤動作)が起きることが顕在化した。候補者らは、SRAM (高速半導体メモリ)のソフトエラーが、今後深刻化することを明らかにし、SRAM中性子線ソフトエラーの高精度シミュレータを開発、ソフトエラーのメカニズムを解明した。その結果、ソフトエラーの広がりの影響を抑え、確実に検出・訂正できる回路を考案、高信頼130 nm 8Mb SRAMの開発に成功し、2001年以降の年間180億円規模の製品出荷に寄与した。また準単色中性子照射試験法を用いたソフトエラー評価技術を開発し、2006年に同技術の国際標準化を果たした。さらに、2009年頃顕在化したルーター(ネットワークを中継する通信機器)の非再現障害が、内蔵されているFPGA(ユーザーが論理機能をプログラムできる半導体集積回路)の中性子線ソフトエラーによることを突き止め、自律的にソフトエラーを高速検出し修復するFPGA内蔵診断回路の開発に成功、これにより障害を自動抑止するルーターが実現した。FPGAは今後、情報、輸送、そしてヘルスケア分野にも使われ、その市場規模は2020年に1兆円に達すると見込まれる。社会インフラの高信頼化に寄与する本業績の社会的意義は大きい。
 以上の理由により、伊部氏、鳥羽氏、新保氏の三氏を第15回山貞一賞半導体及び半導体装置分野の受賞者とする。
 SRAM: Static Random Access Memory  FPGA: Field Programmable Gate Array

研究開発の背景

 1990年代後半から、メモリの一種であるSRAM(Static Random Access Memory)のデータが、高エネルギー宇宙線を起源として大気中で発生し、地上に到達する環境中性子線によって反転・消失する現象(以下ソフトエラー)が顕在化した(図1)。
 その後、さらなる半導体デバイスの微細化に伴い、その影響は半導体メモリからロジックデバイスに及びはじめ、情報通信機器を主とした電子機器そのものの障害として目に見えて深刻化するようになった。
 受賞者らは、環境中性子線によるソフトエラーの計測・定量化技術の開発や、障害発生のメカニズム解明が、電子機器障害抑止技術確立のために必要不可欠であると考えた。

図1 環境中性子線の起源と半導体デバイスの障害メカニズム概念図

図1 環境中性子線の起源と半導体デバイスの障害メカニズム概念図

業績内容
(1)基盤技術の先行開発
 受賞者らは、環境中性子線ソフトエラー障害の計測評価技術として、高エネルギー加速器を用いた準単色中性子(単一エネルギーに近い中性子ビーム)照射試験法、およびそれによる解析手法を定式化すると共に、2006年にその計測法の国際標準化に貢献した。同時に、SRAMの半導体メモリセル内の核反応や、荷電粒子挙動などを精密にモデル化した中性子線ソフトエラーの高精度シミュレーション技術を開発した。
(2)SRAMソフトエラーの根本的解決
 最小加工寸法が180nmのSRAM世代では、エラーは単一ビット(1ビットはメモリー1個に相当)が大部分であった(図2(a))。それに対し130nm世代以降では、図2(b)の①に示すように、1ビットおきに隣接2ビットがとびとびに発生するエラーや、②に示すように、最大12ビットが同時発生するエラーといった、新たに発現した広範囲多重モードが支配的になることを準単色中性子照射試験により発見した。広範囲多重モードをシミュレーションにより再現させて、障害発生のメカニズムを解明した。そのメカニズムに基づいて、広範囲多重モードによる障害を含め、ソフトエラーを抑止できる半導体素子設計技術を開発し、SRAMのソフトエラーを根本的に解決した。
図2 180nm世代と130nm世代のSRAMの中性子ソフトエラーの二次元パターン
図2 180nm世代と130nm世代のSRAMの中性子ソフトエラーの二次元パターン

(3)FPGA電子機器の障害抑止技術の開発・実証
 近年、論理回路には、用途に合わせて自由に構成でき、低消費電力を実現できるFPGA(Field Programmable Gate Array)が多用されつつある。FPGAの論理回路情報はSRAMと同じ構造のメモリに記録されるが、離散したビットに情報を書き込んだままにするため、SRAM同様のエラー修復技術は適用できない。そのため、FPGAを多用する電子機器は環境中性子線に対して今後一層脆弱になることは避けられないと懸念されていた。
 半導体の微細化の一層の進行と共に、2009年頃に情報通信機器において原因不明の非再現障害が頻発し、喫緊の問題となってきた。受賞者らは、電子機器内の電子回路基板に搭載されている半導体部品に、選択的に中性子線を照射して脆弱部を特定する評価技術を開発し、2011年に通信機器の障害がFPGAの中性子ソフトエラーを主因とすることを実証した。
 さらに、受賞者らは、FPGAを主な構成要素とする電子機器における環境中性子線ソフトエラーの発生を動作状態で高速検出し、自律的に修復するFPGA内蔵自律診断・修復回路を開発した(図3)。本回路を搭載したFPGAを情報通信機器に適用し、障害が抑止できることを実証した。
図3 機器障害自動抑止回路の概念図

図3 機器障害自動抑止回路の概念図


本業績の意義

 受賞者らは、早くからSRAMやFPGAのソフトエラー問題に着手して世界をリードし、それらの計測評価技術や障害抑止技術の開発と実用化を推進してきた。FPGAの活用範囲は情報・通信分野のみならず、輸送、産業、ヘルスケアなど様々な分野に拡大し、市場規模は2020年までに1兆円規模まで伸張すると予想されている。今後、1兆個ものセンサを介してあらゆるものがネットワークでつながるIoT(Internet of Things)/デジタル社会が本格的に到来すると、環境中性子線による半導体ソフトエラーがもたらす電子機器の誤作動や停止が、サスティナブルで安心・安全な社会実現の大きな脅威になる。これらを未然に抑止できる本業績は、社会インフラ機器の高信頼化に貢献するものと考えている。

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