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第20回(令和2年度)山崎貞一賞 半導体及びAI・システム・ソフトウェア分野

炭化珪素パワー半導体の基盤技術確立と実用化への貢献

受賞者 受賞者
木本 恒暢(きもと つねのぶ)
略歴
1986年 3月 京都大学 工学部 卒業
1988年 3月 京都大学大学院 工学研究科 修了
1988年 4月 住友電気工業株式会社 伊丹研究所
1990年 8月 京都大学 工学部 助手
1996年 9月 リンシェピン大学 物理学科 研究員
1998年 2月 京都大学大学院 工学研究科 助教授
2006年 4月 京都大学大学院 工学研究科 教授
現在に至る
受賞者 受賞者
中村 孝(なかむら たかし)
略歴
1990年 3月 関西学院大学 理学部 卒業
1990年 4月 ローム株式会社 入社
1998年 7月 京都大学 博士(工学)取得
2014年 9月 福島SiC応用技研株式会社 社外取締役
2017年 4月 大阪大学大学院 工学研究科 特任教授
2019年 1月 福島SiC応用技研株式会社 取締役副社長
現在に至る


授賞理由

 電力変換用半導体では、シリコン(Si)に替わり炭化ケイ素(SiC)を用いることにより、大幅な電力損失低減と機器小型化が可能である。しかし、1990年時点では、材料およびデバイスの両面で基盤技術が欠落し、実用デバイスは実現されていなかった。木本氏は、SiCパワー半導体の基盤技術を確立した。その内容は、4H-SiCでのデバイス実証、高品質エピタキシャル成長技術の開発、結晶欠陥の物性・挙動解明と大幅低減、イオン注入技術の確立、酸化膜/SiC界面の精密評価と高品質化、パワー半導体設計に必要なキャリア寿命・移動度・絶縁破壊電界・衝突イオン化係数の精密決定などである。これらの基盤技術は世界に広く受け入れられ、SiCパワー半導体開発に用いられている。
 木本氏と中村氏は京都大学とローム社の産学連携研究を通じてパワー半導体としての技術課題を解決し、Siの性能を大幅に凌駕するSiCパワー半導体を開発・実証した。また、京都大学、ローム社、東京エレクトロン社の産学連携研究に基づき、量産用SiCエピタキシャル成長装置を東京エレクトロン社が開発、製品化した。これらの基盤技術と実用化技術により実現されたSiCパワー半導体は大きな社会インパクトを与えている。
 以上の理由により、木本氏及び中村氏を、第20回山崎貞一賞半導体及びAI・システム・ソフトウエア分野の受賞者とする。

研究開発の背景

 電力の利用において電力変換(直流⇔交流変換など)は中核技術であり、電力変換には多数のパワー半導体デバイスが用いられる。この分野では、従来Si半導体が用いられてきたが、技術が成熟し、飛躍的な性能向上は困難な状況にある。炭化珪素(SiC)はパワー半導体として優れた物理的性質を有しており、これを用いることでSiに比べて桁違いに低損失のパワーデバイスを実現できる(図1)。1987年に京都大学の松波教授により高品質SiCエピタキシャル成長の基本技術が提案され、SiCの電子デバイス応用の道が開かれたが、木本が当該研究に着手した1990年の時点では、SiCの結晶欠陥制御、イオン注入、酸化膜/SiC界面制御など、材料およびデバイスの両面で基盤技術が欠落しており、SiCパワーデバイ スの量産には程遠い状況であった。当時、SiC半導体の研究開発は、結晶成長に関する基礎研究が中心であり、青色発光ダイオードの開発や高温動作デバイスに関する基礎研究が数機関で進められていたものの、パワーデバイスを目指した本格的な研究は未開拓であった。
 木本は、松波教授が提示したSiCエピタキシャル成長技術の高度化を進めながら、SiC半導体の電子物性や欠陥物性の解明、欠陥密度の大幅な低減などの材料研究を進めた。さらにイオン注入、酸化膜/SiC界面の高品質化と精密評価、1〜20kV級SiCパワーデバイス実証などのデバイス研究を進めながら、ローム社と緊密な連携体制を構築し、SiCパワーデバイス実用化に貢献した。

図1 SiおよびSiCデバイスの性能限界の比較
図1 SiおよびSiCデバイスの性能限界の比較

中村は、SiCパワー半導体のポテンシャルと社会へのインパクトを早期に認識し、ローム社の研究開発部において2003年頃から木本と密接に連携しながらSiCパワーデバイスの研究開発とSiCウェハの高品質化に取り組んだ。 独自のデバイス構造の考案や信頼性の向上を進め、SiCパワーデバイスの基盤技術確立と実用化に貢献 した。


業績内容

 木本は、SiC結晶成長と物性評価の研究を通じて、超高純度化(不純物の割合10-10)、点欠陥の起源解明とほぼ完全な消滅、転位および積層欠陥の挙動解明と制御によるSiCデバイスの高信頼化、キャリア寿命の増大と制御、電子物性(移動度、絶縁破壊電界、衝突イオン化係数など)の精密決定(図2)などを進め、半導体材料としての基盤技術を築いた。さらに、SiC非極性面(A面、M面)の活用と界面窒化による高移動度の実証、イオン注入や金属/SiC界面制御などのデバイス作製に関わる基盤技術を確立すると共に、高耐電圧(>1kV)ショットキーダイオード、独自構造を有し、かつ最高レベルの性能(低損失)の高耐電圧(>1kV)SiC MOSFET、固体素子として最高の超高耐電圧(>20kV)ダイオード、トランジスタ実証などを行った。

図2 SiCの絶縁破壊電界のドーピング密度依存性
図2 SiCの絶縁破壊電界のドーピング密度依存性

 中村は、木本と連携しながら、SiCウェハの高品質化、MOS界面高品質化によるプレーナ型SiC MOSFETの高性能化と信頼性向上、独自構造を有するトレンチ型SiCパワーMOSFETの考案と微細化による超低損失特性の実証を行った(図3)。デバイスの信頼性や実装技術など事業化に向けた課題を解決し、SiCパワーMOSFETおよびパワーモジュールの実用化やSiCショットキーダイオード実用化の基盤を確立した。

図3 低損失SiCトレンチMOSFETの特性

図3 低損失SiCトレンチMOSFETの特性



本業績の意義

 受賞者が確立したSiCパワー半導体におけるキャリア輸送、高電界物性、欠陥物性などのデータベー ス、および基盤技術(イオン注入、高品質MOS界面の形成、SiCに適したデバイス構造など)は、国内外のSiCパワー半導体事業や研究開発に貢献している。実用化された高耐電圧・低損失SiCパワーデバイス(パワーMOSFET、ショットキーダイオード)は、現在、太陽電池用パワコン、エアコン、サーバー電源、エレベータ、急速充電器、さらには鉄道などに搭載されている。SiCパワーデバイスの搭載によって電力変換器の損失を約半分以下に低減できることが実証され、大きな省エネ効果を発揮している。
 また、SiCパワーデバイスの特性を活かすと高出力・高電圧電源の飛躍的な高効率化・小型化が可能となり、これを用いて中性子線癌治療装置に応用できる。これまで巨大な設備が必要であった高電圧電源が小型になり治療装置とほぼ一体化できるため、放射線癌治療装置の設置が困難であった病院にも安価で導入可能になる。耐環境デバイスの開発も可能となるので、エンジンやボイラー制御、地熱発電、原子炉用制御機器、航空機や宇宙開発などの分野にも貢献できる。

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