第25回(令和7年度)山崎貞一賞 バイオ・医科学分野
革新的な診断・治療法の実装によるがんゲノム医療の拡大・推進
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受賞者 | |
|---|---|---|
| 河野 隆志(こうの たかし) | ||
| 略歴 | ||
| 1989年 | 3月 | 京都大学 薬学部 卒業 |
| 1995年 | 3月 | 東京大学 大学院医学系研究科 修了 博士(医学) |
| 1995年 | 5月 | 国立がんセンター研究所 生物学部 研究員 |
| 2010年 | 11月 | 国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究 分野 分野長 |
| 2023年 | 4月 | 同上 がんゲノム情報管理センター(C-CAT) センター長 |
| 現在に至る | ||
授賞理由
河野隆志氏は、開発間もない次世代シークエンサーをいち早くがん研究に活用し、肺がんの新規治療標的としてのRET融合遺伝子を発見した。さらに同氏は産学協同の全国遺伝子スクリーニング機構を組織し、同定した陽性患者を国際治験にエンロールすることでRETキナーゼ特異的阻害薬セルパカチニブの効能を示し保険収載に貢献した。
一方で、氏が開発に貢献した日本初のがん遺伝子パネル検査「NCCオンコパネル」は、100以上のがん関連遺伝子の異常を一度に解析し、治療方針に結びつけることを可能にした革新的な検査法である。同パネルの保険収載により、日本のがんゲノム医療が本格的に始動する転換点となった。また、治療が困難とされる遺伝子の失活型変異に対する治療戦略においても、クロマチン制御因子の失活変異に対する新たな合成致死標的を同定し、治療の可能性を大きく拡げた。今後は、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に集積されたビッグデータの活用により臨床研究や創薬が加速し、日本発の革新的な分子標的治療の創出が期待される。以上のように氏の業績は、極めて高度な基礎研究に基づきながら、それを実際の医療現場に実装するという応用展開を見事に成し遂げており、がんゲノム医療の拡大・推進に大きく貢献した。
以上の理由から、河野隆志氏を第25回山��貞一賞バイオ・医科学分野の受賞者とする。
研究開発の背景
河野博士が、RET融合遺伝子等の治療標的を同定し、さらに、がん遺伝子パネル検査を開発した背景には、がんゲノム医療の可能性は議論されていたものの、その実装が立ち遅れていたことが挙げられる。当時、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子融合など、数は限られていたものの、強力な分子標的治療標的が見出されていた。
そこで、同博士らは、がんゲノム医療をさらに拡大すべく、更なる治療標的となりうる遺伝子変化を発見し、臨床研究者や製薬企業とともに創薬へと進んだ。また、同時に、そのような遺伝子変化を持つがんの患者は、それぞれ全体の数%と限られることから、本邦の保険医療制度の下で用いることができる遺伝子検査薬が必要であることを早くから認識し、国内初のがん遺伝子パネル検査としての「NCCオンコパネル」の実装に取り組んだ。
業績内容
国立がん研究センターのバイオバンク試料について、次世代シークエンサーを用いた解析を行い、肺がんの2%に存在するRET融合遺伝子を同定した。培養細胞を用いた薬剤感受性試験、遺伝子改変マウスを用いた発がん実験等を経て、RET融合遺伝子が細胞のがん化をもたらし、阻害剤治療の標的となることを証明した。
同定後、全国遺伝子スクリーニング機構であるLC-SCRUMを臨床研究者と組織し、RET融合遺伝子陽性患者を様々なRET阻害薬の治験にエンロールすることで、最終的にRETキナーゼ阻害薬セルパカチニブ(イーライリリー社)の保険収載に至った。当該臨床試験においては、初回治療例においては85%の症例で奏功が見られ、平均1年半以上奏功が続くなど、高い治療成績が示された。
NCCオンコパネルについては、プロトタイプを用いて124例の進行固形がん患者さんを前向きに解析し、9例が第I相臨床試験にエントリーされ、33%の患者さんで奏効が得られた。その後、国立がん研究センター中央病院内に品質保証検査室を設立し、国内検査企業であるシスメックス、理研ジェネシスとの協働により、院内品質保証下でNCCオンコパネル検査を稼働し、前向きに230例を解析し13%が遺伝子変異に基づいた治療を受ける機会を得たなど、臨床現場でのfeasibilityと臨床的有用性を示すに至った。
2017年に厚生労働省よりさきがけ審査指定品目に指定され、2018年からは全国50施設からなる先進医療Bでの稼働性の確認を経て、2018年に国内初のがん遺伝子パネル検査として薬事承認、2019年に保険収載された。現在、全国280か所のがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院において、保険診療として検査が行われている。また、その後、NCCオンコパネルの他に5種類の遺伝子パネル検査が薬事承認、保険収載されることとなり、現在では年間2万例以上の進行がん患者ががん遺伝子パネル検査を受けており、本邦のがんゲノム医療の基盤となっている。

図1 RET融合遺伝子の発見と医療実践
本業績の意義
河野博士は、治療標的や遺伝子パネル検査の実装を成し遂げ、日本におけるがんゲノム医療の拡大・推進に寄与した。2025年10月までに約1万名のがん患者がNCCオンコパネルを受検され、遺伝子変異マッチした治療薬が推奨された症例が約3,000名、そのうち750名に推奨薬剤の投与がなされている。まさに、NCCオンコパネルを含めがん遺伝子パネル検査に基づくがんゲノム医療が国を挙げて行われている。今後、がん種横断的な薬物治療や遺伝子パネル検査の普及を含め、がんゲノム医療はさらに拡大していくことが期待される。
現在、河野博士は、国立がん研究センターがんゲノム医療情報管理センター(C-CAT)のセンター長に就任し、自らが実装をリードした本邦のがんゲノム医療を臨床現場で支援するとともに、がんゲノム医療のリアルワールドデータの集積、利活用を実現することで、さらなるがんゲノム医療の拡大に努めている。

図2 NCCオンコパネルがん遺伝子パネル調査の開発

