最新の授賞

2026年9月15日(火)に開催した理事会にて今年度の受賞者を下記2分野3名に決定いたしました。

材料分野

題 目:LPSO構造とキンク強化による革新的マグネシウム合金の開発
受賞者
受賞者
河村 能人(かわむら よしひと)
所 属
熊本大学 先進マグネシウム国際研究センター 卓越教授

半導体及びシステム・情報・エレクトロニクス分野  

題 目:深層学習を用いた音源分離による音声遺産の復元および
    情報端末上でのリアルタイム分離の実現
受賞者
受賞者
光藤 祐基(みつふじ ゆうき)
所 属
ソニーグループ株式会社
デジタル&テクノロジープラットフォーム コーポレートテクノロジーセンター Ethical Creative & Protective AI開発部 統括部長
受賞者
受賞者
高橋 秀介(たかはし しゅうすけ)
所 属
ソニーグループ株式会社
デジタル&テクノロジープラットフォーム コーポレートテクノロジーセンター Ethical Creative & Protective AI開発部 担当部長


受賞者記念コメント

材料分野

河村 能人様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  39歳の時に科研費・特定領域研究へお誘いいただいたことを契機に、高強度マグネシウム合金の研究を進めてまいりました。それから年月を重ね、このような栄誉ある賞をいただける成果へと至ることができ、感慨無量であると同時に大変光栄に存じます。この受賞は、これまで共に研究に励んだ共同研究者やスタッフ、学生の皆様、温かくご指導いただいた恩師や先輩方、環境を整えてくださった関係各位、そして家族の支えの賜物です。心より感謝申し上げます。今回の受賞を大きな糧とし、今後も研究者としてさらなる歩みを進めてまいります。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  研究着手当初は方針が立たず、リーダーに辞退を申し出たほど苦心しましたが、「ここで諦めてはならない」と激励され継続を決意しました。そこで一念発起して原点に立ち返り、多種多様な元素を一つひとつ添加する地道なアプローチを試みた結果、革新的なLPSO型マグネシウム合金の開発に成功しました。その際、恩師の増本健先生から「材料研究者の夢は新材料を開発し社会に使ってもらうこと。実用化まで責任を持ちなさい」と言葉をかけられたことで覚悟が決まり、その後の基礎から応用に至る研究を力強く推進する原動力となりました。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  既存の合金に他の元素を添加したり組織を制御したりして特性を改善するのではなく、独自の簡便な組成探索法を考案し、二元系から三元系へと段階的に挑んだ点がブレイクスルーの起点です。その結果、従来の特性を大幅に凌駕し、新奇な「LPSO構造」の解明と「キンク強化」という新たな材料強化法の発見に至りました。さらに、従来の材料開発におけるトレードオフを打破し、強度や耐熱性、耐食性、不燃性といった相反しがちな特性を同時に達成しています。この学術的発見と、実用化へ直結する圧倒的な材料ポテンシャルの両立こそが、最大のアピールポイントです。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  革新的な新材料であるほど実用化への「死の谷」は深く時間を要しますが、一度社会に実装されれば100年以上にわたり未来を支え続けると確信しています。開発したLPSO型マグネシウム合金は、構造材料の軽量化を通じて持続可能な社会に貢献すべく、ようやくその壁を乗り越えつつあります。さらに、LPSO構造とキンク強化の概念は他の金属やセラミックスへも波及し、日本発の新たな学術領域を切り拓いています。今後はこのイノベーションの世界展開を見据え、研究開発をさらに加速させてまいります。



半導体及びシステム・情報・エレクトロニクス分野

光藤 祐基様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  山��貞一賞という、実用化につながる創造的な業績を対象とした賞をいただき、大変光栄に思います。音源分離は長いあいだ、「混ざった音を後から分けるのはミックスジュースを元に戻すようなものだ」と言われてきた難題でした。研究にはじまり、その成果を作品や製品として社会に届けるまで取り組みをともにしてきた国内外の同僚、そして時に厳しくも率直なご意見を寄せてくださったクリエイターの皆様に心から感謝します。学術と産業のあいだで続けてきた仕事が、このような形で認められたことを大変嬉しく思います。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  転機になったのは2015年の国際コンペティションです。深層学習を音源分離に使おうとしていたのは当時ほとんどわれわれだけで、性能が他手法を大きく上回り、自分たちの立ち位置が変わる瞬間でした。その後、性能は上がっていったのですが、2018年ごろアーティストやスタジオに持っていくと「求められる水準には達していない」と何度も返されました。数字の改善と、プロの耳が求める品質は別物だったのです。現場のフィードバックを受けながら改良を重ねる日々が続き、グレン・グールド氏の演奏音源を分離し、石丸幹二氏との共演を可能にした2020年の仕事で、ようやく届いたという実感を持ちました。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  音源分離は、完成した音楽や映像を制作過程まで巻き戻せる、数少ない技術だと考えています。古い映画の録音はトラックに分かれておらず、後から簡単に空間オーディオへ組み直すことができませんでした。『アラビアのロレンス』や『ガンジー』の音を分け、スタジオがイマーシブフォーマット向けに再構築できたことは、研究成果が作品の新たな価値創出に貢献した例の一つだと考えています。加えて、モバイル機器やテレビ、ヘッドフォンでのリアルタイム利用を可能にするため、低遅延・低演算量化にも取り組みました。クリエーションで求められる品質と実用化に必要な処理効率の両立を追求してきたことも、今回評価いただいた点の一つではないかと思います。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  音源分離によって、一度完成した作品を新たな形で活用したり、修復したりできる可能性が広がります。今後は、クリエイターの権利を守りながら表現の幅を広げるProtective AIと一体で育てたいと考えています。AI技術が創作の現場で自然に活用されるためには、まだ対話と相互理解を深めていく必要があると感じています。脅威ではなく機会として音の技術を使える状態にすることが次の仕事です。過去の作品資産を次世代の体験へとつなぐとともに、クリエイターが安心して新しい表現に挑戦できる環境づくりに取り組んでいきたいと思います。



高橋 秀介様

受賞を知らされてのお気持ち、ご感想

  山��貞一賞という名誉ある賞をいただき、感慨深い思いです。この賞が創造的業績の実用化を評価軸としている点に、特別な意義を感じています。私たちは一貫して、論文を書くことにとどまらず実際に使われる技術を目指してきました。研究開発の現場と、映画館やリビングルーム、ユーザーの手のひらで動く製品との間には、想像以上の距離がありましたが、その距離を一歩ずつ埋めてきた歩みを評価いただけたことは、この上ない喜びです。

研究開発の途中で苦労または工夫された点、エピソードなど

  最も苦労したのは、エンタテインメント制作に求められるクオリティと、民生製品に組み込むクオリティのギャップを埋めることでした。映画や音楽の制作現場では、プロフェッショナルの耳が求める極めて高い品質基準を満たす必要があります。一方、テレビやヘッドホンといった製品では、限られた計算資源とリアルタイム性という厳しい制約の中で、それに近い品質を実現する必要がありました。この課題を解決するため、エンタテインメント向けに鍛え上げた技術をベースとして、そこから各製品の仕様に最適化していく開発体制を構築しました。そのプロセスでは、映画スタジオや音楽制作スタジオのエンジニア、製品開発エンジニアなど、多くの専門家と連携し、知見を集結することが必要でした。現場のクリエイターから寄せられる、時に厳しいフィードバックを受け止めながら改良を重ね、それを製品展開へとつなげる流れを作り上げたことが、今回の成果につながっていると考えています。

受賞の対象となった研究の特筆すべきことや、一番アピールしたいこと

  私たちの貢献で最も強調したいのは、技術の裾野を広げたことです。Music Demixing Challenge 2021、Sound Demixing Challenge 2023といった国際コンペティションを主催することで、世界中の研究者が競い合い、学び合うプラットフォームを提供し、研究コミュニティ全体の水準向上に努めました。同時に、研究成果のオープンソース化を通じて、誰もが音源分離技術にアクセスできる環境づくりにも取り組んできました。 実用面では、過去と未来をつなぐ橋としての役割を果たしてきました。最近の代表例として、1985年の『天使のたまご』では、モノーラル音源からセリフ、効果音、音楽を分離し、空間オーディオフォーマットへ変換することで、カンヌ国際映画祭での上映や劇場公開を実現しました。マルチトラック素材が存在しない文化遺産を現代の立体音響で甦らせ、次世代につなぐことができたことは、研究者として誇らしい成果です。こうした過去作品の再生だけでなく、テレビ局では著作権処理が複雑なアーカイブ番組から音楽を分離して差し替えることで、貴重なコンテンツの二次利用を可能にするなど、放送業界全体でのコンテンツ資産活用にも貢献しています。

受賞の対象となった研究の、将来的な展望や期待について

  音源分離技術は日々進化しており、より細かな音源まで分離して取り出せるようになってきています。しかし、劣悪な録音条件や、類似した音色の分離など、いまだに難しいコンテンツも存在しており、技術的な課題は残されています。こうした限界を乗り越え、あらゆるコンテンツに対応できる技術へと発展させていくことで、過去には不可能だったコンテンツ制作や、新しい音楽体験が実現できるようになることを目指しています。 私が大切にしているのは、クリエイターが表現の可能性を拡張できる道具となるように技術を育てていくことです。今後も技術の進化を通じて、クリエイターに様々なオプションを提供し、意欲的に新しい挑戦ができる環境づくりに引き続き貢献していきたいと思います。

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