第15回(平成27年度)山崎貞一賞 材料分野
クリープ強化フェライト系耐熱鋼の開発・実用化と発電プラントの高効率運用への貢献
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 増山 不二光(ますやま ふじみつ) | ||
| 略歴 | ||
| 1970年 | 3月 | 九州工業大学大学院 工学研究科金属工学専攻 修士課程修了 |
| 1970年 | 4月 | 三菱重工業(株) 技術本部長崎研究所 入社 |
| 1988年 | 3月 | 大阪大学 工学博士 |
| 2001年 | 4月 | 三菱重工業(株) 技術本部長崎研究所技監主幹研究員 |
| 2003年 | 4月 | 九州工業大学大学院 工学研究科機能システム創成工学専攻 教授 |
| 2009年 | 4月 | 九州工業大学大学院 工学研究院先端機能システム工学研究系 特任教授 |
| 2012年 | 4月 | 九州工業大学大学院 工学研究院物質工学研究系 特任教授 |
| 現在に至る | ||
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 伊勢田 敦朗(いせだ あつろう) | ||
| 略歴 | ||
| 1982年 | 3月 | 大阪大学大学院 工学研究科冶金工学専攻 前期課程修了 |
| 1982年 | 4月 | 住友金属工業(株) 総合技術研究所 入社 |
| 1991年 | 6月 | 大阪大学 工学博士 |
| 1991年 | 7月 | 住友金属工業(株) 鋼管製造所 鋼管技術室担当副長 |
| 1995年 | 4月 | 住友金属工業(株) 米国シカゴ事務所技術マネージャー |
| 1999年 | 4月 | 住友金属工業(株) 鋼管製造所 特殊管技術部担当課長、 2006年6月 担当部長 |
| 2012年 | 10月 | 新日鐵住金(株) 鋼管事業部鋼管技術部 特殊管商品技術室長 |
| 現在に至る | ||
授賞理由
地球温暖化防止を目的としたCO2排出量削減のため、火力発電の高効率化が精力的に進められてきた。この効率化には、石炭火力やガスタービンの排熱回収に使われる蒸気を熱回収するボイラーの伝熱管の耐熱性向上が最も有効である。この為には、高温での耐クリープ強度が高く、かつ耐酸化性、耐疲労性に優れた伝熱管の開発が不可欠である。
増山不二光、伊勢田敦朗両氏は、長年この問題に取り組み、鋼管の組成、結晶構造、焼入れおよび焼きなまし温度の最適化により、耐熱強度、耐腐食性、靭性、延性に優れかつ高い経済性を有する四種類の新たなクリープ強化フェライト系耐熱鋼を世に送り出してきた。更に、鋼管のクリープ損傷過程を透過電子顕微鏡等で金属学的に詳細に調べることにより高温高圧下での耐熱鋼の劣化機構を解明し、高精度の寿命評価技術を確立することでボイラーの長期安全安定運用を達成させた。
本鋼材開発による火力発電高効率化により、全世界で年間数億トンのCO2排出削減に寄与しており(日本全体での年間CO2排出量が約13億トン)、将来も引き続き貢献が期待できる。
以上の理由により、増山氏、伊勢田氏の二氏を第15回山��貞一賞材料分野の受賞者とする。
研究開発の背景
現在、我が国では、原子力発電所の稼働が困難な状況の中で、電力供給の約9割を火力発電が担っている。電力の安定供給は国のエネルギー基盤を支える最重要課題であるため、電力各社は火力発電の大幅な増設を計画している。そしてそのほとんどが石炭火力である。石炭火力の場合、CO2削減、環境保全の面から蒸気条件の高温高圧化が必須であり、耐熱性の優れた経済的な鉄鋼材料が必要不可欠である。また、火力発電の中ではCO2排出量は少ないが、燃料費が高価な天然ガス燃焼ガスタービンコンバインドサイクルにおける排熱回収ボイラの高温化のためにも経済性の優れた高強度フェライト系耐熱鋼の使用が必須である。そして、高温化による高効率運用を長期に亘って可能にするための耐熱鋼の長時間材料挙動解明による評価、診断、寿命評価が強く求められている。
業績内容
火力発電用ボイラの運用条件に適した経済的クリープ強化フェライト系耐熱鋼、4鋼種の開発、それを含めた国産材の国際標準化および寿命評価のための材料技術開発の研究を実施し、大規模な実用化を行ったのが本業績であり、その内容は以下のとおりである。すなわち、
1)クリープ強化フェライト系耐熱鋼の開発
低炭素-9Cr-2Mo鋼は、炭素量を約0.6%に低減し、固溶強化元素であるMoの添加量を2%に増量した材料であり、フェライト状組織の炭化物析出強化を図り、1%Mo含有従来鋼のMo炭化物析出による固溶Mo量低下を補って固溶強化を持続させるために2%Moとしている点が特徴であり、これらの強化機構によってこの材料の600℃、10万時間強度は、従来材の35MPaレベルから60MPaレベルに上昇した。
12Cr-1Mo-1W-V-Nb鋼は、上記鋼の材料設計の成功を踏まえ、12%Cr鋼としては比較的低炭素0.1%とし、当時の重油燃焼や黒液燃焼ソーダ回収ボイラにおける炉内小径管の激しい腐食を12%Crとすることによって劇的に改善した。同時に本鋼の600℃、10万時間クリープ破断強度は1%Mo、1%W、V、Nb添加の組成と800℃高温焼戻しによって、オーステナイト系ステンレス鋼並み(100MPa)となり、画期的な高強度高耐食鋼であった。
12Cr-0.5Mo-2W-V-Nb-Cu鋼は、小径管用として開発実用化した上記12%Cr鋼を改良して大径厚肉鋼管に使用できる靭性改善とさらなる高強度化を行った材料である。炭素量が0.1%の12%Cr鋼の耐熱性を保持しながらマルテンサイト単相組織とすることは極めて難しく、Cr量を若干低下(11%Cr)し、焼きならし温度でオーステナイト単相とするための合金元素としてCuを使用した。この種材料でのCu使用は前例がなく、極めて独創的な合金設計であった。それによって600℃、10万時間クリープ破断強度は、約130MPaが可能となり、この材料によって超々臨界圧発電プラントが実現した。
0.06C-2.25Cr-0.1Mo-1.6W-V-Nb-B鋼は、米国で開発され、現在大量に使用されているGr.91(改良9Cr-1Mo鋼)の成分設計を2.25Cr-1Mo鋼に適用することを目的に研究を開始し、低炭素ほど強度が高くなることを発見したことがきっかけとなり、1.6%W、V、Nb、Bの添加と微量元素調整によりGr.91鋼に匹敵する高いクリープ強度が得られた。石炭焚き超々臨界圧発電プラントの主蒸気管寄せに使用された上記2鋼種を図1に示す。

図1 700MW石炭焚き超々臨界圧発電プラントの主要耐圧部に使用された開発鋼2種
2)国際標準化
アメリカ機械学会(ASME)ボイラ・圧力容器規格(含原子力)は、当該分野で世界的権威を有しているが、従来、我が国開発材の規格は皆無であった。同規格委員会委員としての活動により、上記4種類の開発鋼の内、後半で開発された2鋼種と、その他の国内開発材をASME規格に組み入れ、相次いで規格化(国際標準化)を達成した。
3)寿命評価材料技術の開発
発電設備で高温・長時間、耐熱鋼を使用するとクリープ損傷が発生し、寿命を消費するが、従来その過程での組織変化と機械的損傷との因果関係についてはまったく知見がなく、機械的損傷が発生する前の寿命初期から中期を含めた非破壊的寿命評価技術はなかった。そこで両者の因果関係や連続性について劣化損傷した長時間使用材の金属組織学的解析を行って新たに発見した現象を寿命評価に利用した。すなわち、Cr-Mo鋼において炭化物反応で析出するM6C炭化物(M=Mo+Fe)の中のMo元素は母地中の固溶Moからも移行する過程でM6Cと母地との界面に硫黄を濃縮させ、それによって微小き裂のもととなる界面分離を生じさせる、という一連の損傷基礎過程のモデル化によって独創的でまったく新しい金属組織学的非破壊寿命評価法を開発した。
本業績の意義
1)火力発電用高温機器部材としてクリープ強度が著しく優れ、その時々の使用条件に最適な、フェライト系耐熱鋼の4鋼種を開発し、実機実証試験等を通じて国内外の発電プラントに大規模な実用化を行った。特に2.25Cr-1.6W-V-Nb-B鋼は、石炭火力のみではなく、天然ガス燃焼ガスタービンコンバインドサイクル排熱回収ボイラの高温化、経済性向上に不可欠の材料として世界的実用化の道を開いた。
2)経済産業省火力発電技術基準および欧州TuV基準に規格化された上記開発材のうち、2鋼種を世界で最も権威のあるASMEボイラ・圧力容器規格へ登録を行い、国際標準化を達成した。それによって数1000トンから数10万トンの規模で、世界標準材として各国の高効率火力発電に実用化されるようになった。さらに、同規格に、我が国で開発されたボイラ・圧力容器用の14鋼種を規格化し、世界標準材として使用される道を切り開いた。
3)火力発電用高温機器部材として高温で数10年以上使用された耐熱鋼の材料劣化挙動の基礎的解明を行い、その知見に基づいて金属組織学的寿命評価法(資源エネルギー庁の指針に採用)を開発・実用化した。
これら一連の開発と実用化によって、火力発電の高効率化と長期安全運転に多大な貢献をし、我が国のみならず世界中において電力の安定供給に貢献している意義は極めて大きい。特に、開発鋼の使用によってもたらされるCO2削減効果についてみると、2.25Cr-1.6W-V-Nb-B鋼を排熱回収ボイラに使用したガスタービンコンバインドサイクルの場合、燃料使用量およびCO2排出量ともに約25%の削減が可能であるので、高効率化と地球環境対策の面から大きな貢献が期待される。
