第22回(令和4年度)山崎貞一賞 材料分野
超臨界連続水熱合成法の発明による新規ナノ材料創製
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 阿尻 雅文 (あじり ただふみ) | ||
| 略歴 | ||
| 1981年 | 3月 | 東京大学 工学部 化学工学科 卒業 |
| 1986年 | 3月 | 同大学大学院 工学系研究科 化学エネルギー工学専門課程博士課程 修了 (工学博士) |
| 1986年 | 4月 | 日本学術振興会 特別研究員 |
| 1987年 | 4月 | 東京大学 工学部 化学工学科 助手 |
| 1989年 | 4月 | 東北大学 工学部 生物化学工学科 助手 |
| 1991年 | 4月 | 同大学 工学部 生物化学工学科 助教授 |
| 2002年 | 4月 | 同大学 多元物質科学研究所 教授 |
| 2007年 | 10月 | 同大学 原子分子材料科学高等研究機構 WPI-AIMR(現 材料科学高等研究所) 教授 |
| 現在に至る | ||
授賞理由
阿尻氏は、世界に先駆け「超臨界流体を反応場として利用するモノづくり」の研究に取り組んできた。超臨界場では、気相と液相、あるいは水と油といった、通常は混じり合わないものが均一相を形成する。この特徴を利用することにより、金属酸化物の酸化・還元の自在制御、有機・無機反応の同時進行など、従来では困難であった非平衡での材料合成が可能となる。
水熱合成法を用いたナノ材料製造において、高温・高圧の超臨界反応場まで高い過飽和状態を維持することが望まれるが、従来手法では超臨界に至る過程で析出反応が進行し、理想的な過飽和状態を得ることが困難であった。
阿尻氏は、独創性に優れた流通式の超臨界連続水熱合成法を発明し、この矛盾を解決した。この手法は様々なナ
ノ材料を工業的に合成できる「基盤的技術」と言える。さらに超臨界加水分解による廃液からの資源回収などへの応用発展が期待される。阿尻氏は、本技術を学術論文や国際学会にて精力的に公表することにより世界各国での工業化に結び付けており、その学術的、社会的貢献は甚大と考えられる。
以上の理由により、阿尻氏を第22 回山��貞一賞材料分野の受賞者とする。
研究開発の背景
超臨界流体(図1)は液体と気体の性質をあわせもつ流体である。モノづくりの産業は気体、液体、固体で行われているが、超臨界流体を用いたモノづくりはなかった。
受賞者は、超臨界場の反応の特異性を活用することで、従来の気相、液相、固相では作ることのできない物質・材料を合成できると考え、新材料技術開発の挑戦を始めた。

図1 物質の状態と超臨界流体
一般に、ナノ粒子の合成には高い過飽和度を与える必要があるが、従来の気相法も液相法も、原理的に限界があった。そのため、バルク物性とは異なる機能発現が期待される10nm以下のナノ粒子を、低コストで連続大量生産を行うことができなかった。
また、ナノ粒子の産業応用は、主に、ナノ粒子を溶媒に分散させたナノインク、ナノフルイドとしての利用、ポリマーとハイブリッド化しての利用がある。しかし、溶媒やポリマーとの親和性が悪く、実際には良好な分散が得られず、凝集体となってしまい、目的とする機能が発現しなかった。親和性制御のためには、有機分子による表面修飾が必要であるが、水に分散した無機ナノ粒子と表面修飾するための有機分子と水とが相分離してしまうため、ナノ粒子の有機修飾、そしてこれらの応用材料技術開発はごく限られた領域に限定されていた。
業績内容
受賞者は、世界に先駆け「超臨界流体を反応場として利用するモノづくり」の研究に取り組んできた。特に、超臨界反応場を利用したナノ材料合成法(超臨界水熱合成法)を初めて提案した。金属酸化物の水中溶解度(金属塩として溶解)は温度とともに高くなるが、超臨界状態となると大幅に減少する。一方、金属酸化物の析出速度(水熱合成反応)は、臨界点を超えると2桁以上も急激に増大する。つまり、気相・液相反応では不可能だった高い過飽和度を得られることとなる。
ところが、従来の高温高圧バッチ反応器(オートクレーブ)を用いると、温度は徐々にしか上がらず、超臨界温度に至る前の昇温過程、つまり低温下で過飽和となり粒子生成・成長が生じてしまう。それに対し、受賞者は図2 に示す2流体混合型流通反応システムを提案し、それを可能とした。秒のオーダーの高速度で反応するため、高圧プロセスではあるが、必要な反応容器は極めて小さく、プラントコストは逆に低く、流通系であり熱回収が可能であるため操業コストも低い連続大量合成プロセスである。

図2 2流体急速混合・超臨界水熱合成反応システム
超臨界場では、気相と液相、あるいは水と油といった、通常は混じり合わないものが均一相を形成する。この特徴を利用することにより、金属酸化物の酸化・還元の自在制御、有機・無機反応の同時進行(図3)など、従来では困難であった非平衡での材料合成が可能となる。

図3 有機修飾CeO2ナノ粒子のHR-TEM像(左)
と緑線内元素マッピング(右):
緑色(CeとO)の周りの赤色は炭素(有機分子)
本業績の意義
この手法は様々なナノ材料を工業的に合成できる「基盤的技術」と言える。
すでに、Liイオン電池の正極材料や触媒合成をはじめ、年間1000トン規模のプロセスが実用化している。一般に充放電を繰り返すと電池容量低下が生じるが、超臨界水熱合成法で製造された粒子は単結晶のため、電池容量劣化が抑制される。
超臨界水熱合成法により、任意の有機分子を修飾できるようになったことで、ナノ粒子の応用展開が進んでいる。有機溶媒にナノ粒子を分散させようとすると凝集が進むことが多かった。親和性を向上させることで、高濃度分散させることができるようになり、プリンテドエレクトロニクス用のナノインクや熱輸送のためのナノ循環液などの合成も可能となった。
高分子とのハイブリッド材料開発にも貢献している。パワーデバイス等で求められる高熱伝導樹脂、光学デバイス開発に求められる屈折率制御樹脂の開発には、ナノ粒子と樹脂との親和性制御が必須である。超臨界法により適切な有機分子修飾ナノ材料が開発できたことで、これらのデバイス開発が精力的に進められている。
さらに、本手法によれば、露出面制御ナノ粒子合成も可能となった。低温での酸素イオン伝導など、従来のバルク材料、ナノ材料にも見られなかった、新たな「超ナノ粒子」の新機能発現が見出されている。超臨界分解による廃液からの資源回収や改質・水素合成などへの応用発展が期待される。
