第2回(平成14年度)山崎貞一賞 計測評価分野
アモルファス磁性ワイヤによる超高感度マイクロ磁気センサ(磁気インピーダンス効果素子)の開発
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 毛利 佳年雄 (もうり かねお) | ||
| 略歴 | ||
| 1968年 | 3月 | 九州大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程修了 |
| 1982年 | 4月 | 九州工業大学 工学部 教授 |
| 1987年 | 10月 | 名古屋大学 工学部 教授 |
| 1997年 | 4月 | 名古屋大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 教授 |
| 現在に至る | ||
選考理由
毛利佳年雄氏は長年に亘る磁気利用技術の分野において多くの優れた成果を挙げ、センサマグネティックスという新しい学問分野の開拓に貢献してきた。今回の応募内容は、それら一連の研究の中から磁気インピ−ダンス効果素子の開発を中心にその関連業績を対象としたものである。
氏は1993年に、アモルファス合金のワイアに高周波電流を通電するとインピ−ダンスが外部磁界によって大きく変化する電磁気現象を発見した。この巨大磁気インピ−ダンス効果を利用することにより、微小寸法のヘッドをもち、磁界検出感度が高く、かつ応答の速い新しい磁気センサができることを提案し、基本特許を出願するとともに、企業と共同で科学技術振興事業団の委託開発研究等を推進してきた。
温度安定性にすぐれたマイクロ磁気センサの量産化を目指した研究では、低消費電力型の半導体デジタル回路を適用し、通常のアナログ信号処理方式ではなく、CMOSICを用いた発振回路の出力をパルス化してパルス誘起電圧を検出する方式を開拓した。さらに、接合材にアルミニウムを用いた超音波ボンディングにより接着ワイヤを堅牢に接合し、素子のモ−ルド化を可能とすることにより、耐久性に優れ安定した出力の得られる高感度磁気センサの実現に成功している。このセンサは、小型軽量で消費電力が小さく、振動や温度などの変動にも強いため、車載用磁気センサとしての用途が期待されている。また、共同開発した企業では、携帯電話に搭載可能な超小型・高感度MIセンサの開発にも成功しており、急速に拡大する情報機器のインテリジェント化を促進して、近い将来年間10億個以上の市場になることも予測されている。
このように本研究は、自ら発見した現象をもとに実用化まで発展させている点で、独創性、実用性の認められるものであり、日本の開発した独自技術としてMI素子の世界市場への展開が見込まれる。また、センサ単独での利用のみならず、システム化によって環境・医療分野での診断装置として、あるいは産業・民生分野での検査システムとして用途の拡がりも期待されることから、山崎貞一賞にふさわしい研究業績として推薦したい。
研究の背景
1980年代後半から欧米および日本を中心に情報社会が急速に進展し、コンピュータはマルチメディア特に動画像を多く扱うようになったため、外部記憶装置の高密度・大容量化が必要になり、記憶情報の検出デバイスである高感度マイクロ磁気ヘッドの開発が急務となった。同時に、環境・都市問題や生命・バイオ問題などの広域的、総合的かつ生命倫理面を含む相互に関連した西洋科学技術にとって未体験の人類的諸問題が顕在化し始め、まずこれらの実態を把握するための高感度マイクロ磁気センサを含む各種の高感度マイクロセンサの開発も急務となった。また1990年代後半に至って日本の産業の空洞化が社会問題となり、これを克服する新産業の創出の鍵となるポストパーソナルコンピュータ技術の創成をテーマに、「ディジタル概念を越える強力な電子デバイス(知能デバイス、マイクロセンサ)の発明」が研究者の使命となった。
本研究は、これらの時代的、社会的要求を強く意識して進めたものであり、直接的には1988年のFert教授らの巨大磁気抵抗効果の発見に強く触発され、これと全く異なる発想からかつてない高感度マイクロ磁気センサを発明したものである。
業績内容
受賞者は、1981年以来アモルファス磁性ワイヤを素材として、磁気センサの研究を展開し、これまでアモルファス磁歪ワイヤの大バルクハウゼン効果の発見によるセキュリティセンサタグの実用化(1985 〜 )をはじめ、アモルファス零磁歪ワイヤの垂直マテウチ効果の発見によるペン入力コンピュータ用データタブレットの実用化(1990 〜 )の基礎を確立して来た。本研究は、これらのアモルファスワイヤの研究実績の上に立って、以下の経緯に示す産学官の緊密な連携によって着実に進展し、集積回路形マイクロ磁気センサの量産開始にまで結実したものである。
- ��1993年アモルファス零磁歪ワイヤの磁気インピーダンス効果(MI効果;受賞者命名)による高感度マイクロ磁気センサの原理を発見。RQ-8 国際会議で招待講演を行う。1994年米国電気電子学会(IEEE)インターマグ会議でMagneto‐Impedance seminar sessionが設置され、これを機に欧米を中心に磁気インピーダンス効果の研究が世界的に発展した。この研究業績により、受賞者は1995年にIEEEフェロー表彰を受けた。以来、これまでの国際会議招待講演は16回になる。
1997年には、CMOSインバータICを用いたパルスMI効果による高感度・高速応答・低消費電力のマイクロ磁気センサ(CMOSMIセンサ)を発明し、集積回路形MIセンサの基礎を確立した。この発明は、IBM社の注目するものとなった。 - ��1994年より、文部科学省所管の科学技術振興事業団(JST;大日向課長補佐)による本研究(日本の独創技術)への支援が開始され、1998年には筆者はJSTハイテクコンソーシアムを企業7社と実施した。
- ��この参加企業の1社の愛知製鋼(株)が1999〜2001年JSTの委託開発制度により、自動車用高密度実装MIセンサの開発を実施し成功した。これを機に、2000年12月8日に産(愛知製鋼)、学(名古屋大学)、官(JST)連携のMIセンサ応用システム研究開発型ベンチャー企業が設立され、受賞者は取締役を兼業している。
同社はさらに2002年に集積回路MIセンサ(MIIC)の開発に成功し、2003年より携帯電話用MIIC電子コンパスの量産(200万個/月)を予定している。
本業績の意義
電子情報産業技術分野では、欧州のオートメーション、米国の情報技術に対して、日本は知能化(インテリジェント)計測制御システムを柱とすべきであり、マイクロセンサはシステムの性能を基本的に決定する役割を担う。本研究のMIマイクロ磁気センサは、生産機械、ロボット、自動車などの高度な制御や環境、医療などの計測に必要なミリガウス磁気情報を安定にかつ容易に検出することが出来るので、電子コンパスを始め速度センサやトルクセンサ、電流センサ(零相電流)、磁気カード・紙幣センサ、脳腫瘍センサ、地震予知センサなどの多種多様の高感度で量産型のマイクロ磁気センサとして普及することが予想される。
