第16回(平成28年度)山崎貞一賞 半導体及び半導体装置分野
通信波長帯量子ドットレーザの高性能化とその実用·量産化
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 菅原 充(すがわら みつる) | ||
| 略歴 | ||
| 1982年 | 3月 | 東京大学工学部物理工学科 卒業 |
| 1984年 | 3月 | 東京大学大学院物理工学修士課程 修了 |
| 1984年 | 4月 | 株式会社富士通研究所 入社 |
| 1995年 | 5月 | 東京大学 博士(工学) |
| 2005年 | 4月 | 株式会社富士通研究所 ナノテクノロジー研究センター長 代理 |
| 2006年 | 4月 | 株式会社QDレーザ 代表取締役社長 |
| 現在に至る | ||
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 武政 敬三(たけまさ けいぞう) | ||
| 略歴 | ||
| 1993年 | 3月 | 東京大学工学部物理工学科 卒業 |
| 1995年 | 3月 | 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 修士課程修了 |
| 1995年 | 4月 | 沖電気工業株式会社 入社 |
| 2008年 | 11月 | 株式会社QDレーザ 入社 |
| 2016年 | 7月 | 株式会社QDレーザ 執行役員·レーザデバイス事業部 事業部長 |
| 現在に至る | ||
| 受賞者 | ||
|---|---|---|
| 西 研一(にし けんいち) | ||
| 略歴 | ||
| 1983年 | 3月 | 東京大学理学部物理学科 卒業 |
| 1983年 | 4月 | 日本電気株式会社 入社 |
| 2002年 | 9月 | 東京大学 博士(工学) |
| 2008年 | 4月 | 株式会社QDレーザ 入社 レーザデバイス事業部ウエハプロセス開発部 部長 |
| 2015年 | 4月 | 株式会社QDレーザ レーザデバイス事業部 担当部長 |
現在に至る |
授賞理由
1982年に、東京大学荒川・榊両教授によってキャリアを三次元的に閉じ込める量子ドットレーザが提案され、キャリアを一次元方向に閉じ込める量子井戸レーザよりも閾値特性の温度依存性が低減することが原理的に示された。しかし、均一で高密度な量子ドットの形成が困難で、実現されていなかった。そのような状況で、富士通研究所の菅原氏は自己組織化による量子ドット結晶成長技術の開発を推し進め、1998年世界で初めて通信波長帯(1.3μm)量子ドットレーザの室温連続発振に成功した。そして、東京大学との産学連携の下、さらなる研究開発を推し進め、InP系量子井戸レーザを凌ぐ特性、とくに温度依存性の少ない量子ドットレーザの試作に成功した。
2006年、菅原氏は㈱QDレーザを日本発ベンチャーとして起業し、武政氏、西氏らとともに、量子ドットのさらなる高均一化と従来の倍以上の面内高密度化を実現した。さらに、多層化とデバイス構造の最適設計により、高温で安定動作する通信用量子ドットレーザを開発、歩留98%以上の高信頼結晶成長技術とプロセス技術の開発により、安定した量産に成功した。その結果、従来のInP系量子井戸レーザに勝る特性(広い使用温度範囲、低消費電力、長寿命)とGaAs基板使用による低価格メリットを活かし、2015年度までにデータ通信市場の用途として300万台以上の出荷台数を達成した。さらに、次世代光インターコネクト向け光源への応用検証が開始されており、今後もICT社会への貢献は極めて大きいと予測できる。
以上の理由により、菅原氏、武政氏、西氏の三氏を第16回山��貞一賞半導体及び半導体装置分野の受賞者とする。
研究開発の背景
1982年に、東京大学荒川·榊両教授によってキャリアを三次元的に閉じ込める量子ドットレーザが提案され(図1)、キャリアを一次元方向に閉じ込める量子井戸レーザよりも閾値特性の温度依存性が低減することが原理的に示された。予測された高性能を実現するためには、数10nmのサイズの量子ドットを高密度で高均一に形成する必要があり、当時はその実現は困難と考えられていた。しかし、菅原は富士通研究所において分子線エピタキシー(MBE)法による自己形成InAs量子ドット結晶成長とレーザ技術の開発を推し進め、1998年世界で初めて通信波長帯(1.3μm)量子ドットレーザの室温連続発振に成功した。そして、東京大学との産学連携の下、従来のInP系量子井戸レーザを凌ぐ特性、特に温度依存性の少ない量子ドットレーザの試作に成功した。

図1 量子ドット構造の離散的な状態密度量子井戸·細線との比較
業績内容
2006年、菅原は量子ドットレーザを光通信·光インタコネクト分野で商用化、量産化することを目指して、ベンチャー企業株式会社QDレーザを設立した。そして、日本の大手電気メーカから転身した武政、西らとともに量子ドットレーザのさらなる高性能化と量産技術構築を進めた。
まず、MBE法において、成長温度、原料供給量を秒単位で連続制御し、InAs量子ドットの自己形成過程を追求した。これにより、高密度核形成、サイズと形状制御の最適条件を追求した。その結果、ドット面内密度の倍増(6×1010cm-2)と多層化(8層以上)、高均一化(発光半値幅で従来の2⁄3)を実現した(図2)。

図2-1 量子ドットのAFM像 密度6×1010cm-2

図2-2 発光スペクトルの量子ドットの均一性改善前後比較
同時に、量子ドットを活性層とする半導体レーザ構造を設計し、安定した単一モード動作と高信頼性を得た。並行して、チッププロセス、パッケージ組立工程の国内外メーカとの水平分業化を進め、歩留まり98%超の量子ドットレーザ量産技術を確立した。 図3に、100度以上の高温度動作、温度安定動作を実現した量産型量子ドットレーザを示した。従来のInP系量子井戸レーザに勝る特性(広い動作温度範囲、低消費電力(50℃以上の高温時)、長寿命(85℃において30万時間))とGaAs基板使用による低価格メリットを活かし、2015年度までにデータ通信市場に300万台以上を出荷した。現在、携帯電話基地局間通信等の100℃を超える高温環境への適用が進んでいる。

図3-1 量子ドットレーザ チップ·TO-CANパッケージ

図3-2 -40℃ から120℃ までの電流-光出力特性
本業績の意義
20世紀の3大発明であるトランジスタ、レーザ、コンピュータは、半導体技術によって小型高性能化し、インターネットに基づくグローバル情報基盤を構築するに至った。21世紀にはいり、この情報基盤に基づいて人間と情報世界の融合が急激に進行しているが、指数関数的に急増するデータ処理量に対応するため、シリコン電子信号処理システムの抜本的高速化が求められている。
現在、QDレーザはこれを目指して、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)と連携し、量子ドットレーザ光源とシリコン電子/光回路の融合したシリコンフォトニクスの技術開発を急ピッチで進めている。既に量子ドットレーザを光源として、高速の温度無依存伝送(室温〜125℃)を実証した。この技術により、チップ間光接続を可能とし、サーバ処理能力の大幅な向上と低消費電力化が期待される。
