ワイドギャップ半導体β-Ga2O3の ドーパント存在サイト同定・電子状態評価(C0560)
ミクロな原子構造を計算シミュレーションによって評価可能
概要
β-Ga2O3は広いバンドギャップを有し、優れた送電効率や低コスト化の面で次世代パワーデバイスや酸化物半導体の材料として期待されています。近年、β-Ga2O3はSiまたはSnのドーピングでn型化することが報告されています。本資料では、β-Ga2O3にSiもしくはSnをドープしたモデルに対して構造最適化計算を実施し、各ドーパントが結晶中でどのサイトを占有しやすいかを評価しました。続いて、得られた構造モデルから状態密度を計算し、ドーピングによる電子状態の変化を調査しました。
データ
β-Ga2O3構造
β-Ga2O3の構造を下図※に示します。Gaの存在するサイトは、周囲のO原子が作る四面体の中心にあるサイト:Ga(1)と、周囲のO原子が作る八面体の中心にあるサイト:Ga(2)の2種類が存在します。
Si,Snドープ時の構造最適化
2種類存在するGaのサイトに対し、SiもしくはSnを置換したモデルを作成し、構造最適化計算を実施することで各ドーパント元素の存在サイトの同定を行いました。
構造最適化後の安定化エネルギー
ドーパント |
Si |
Sn |
サイト |
Ga(1) |
Ga(2) |
Ga(1) |
Ga(2) |
エネルギー[eV/unit cell] |
-22037.853 |
-22037.667 |
-22058.017 |
-22058.224 |
- ドープされたSiはGa(1)サイト(4配位)の位置で安定化します。
- ドープされたSnはGa(2)サイト(6配位)の位置で安定化します。
構造最適化後のドーパント周囲の構造
サイト |
Ga(1) |
Ga(2) |
ドーパント |
- |
Si |
- |
Sn |
平均結合距離[Å] |
1.867 |
1.699 |
2.028 |
2.077 |
結合距離標準偏差 |
0.016 |
0.007 |
0.063 |
0.036 |
多面体体積[Å3] |
3.306 |
2.480 |
10.863 |
11.731 |
- SiはGa(1)サイトへ置換することで、四面体の歪みを小さくし、O原子との結合距離を短くします。
- SnはGa(2)サイトへ置換することで、八面体の歪みを小さくし、O原子との結合距離を長くします。
※図はVESTA(https://jp-minerals.org/vesta/jp/)で作成
状態密度
β-Ga2O3及びSi、Snドープβ-Ga2O3の状態密度(DOS)、部分状態密度(PDOS)を求めました。
計算結果
ドーパント |
- |
Si |
Sn |
サイト |
- |
Ga(1) |
Ga(2) |
VBM[eV] |
-0.8 |
-5.2 |
-5.1 |
VBMを構成する主な軌道 |
O 2p |
O 2p |
O 2p |
CBM[eV] |
3.6 |
-0.8 |
-0.8 |
CBMを構成する主な軌道 |
Ga 4s |
Ga 4s |
Ga 4s
Sn 5s |
バンドギャップ[eV] |
4.4 |
4.4 |
4.3 |
光学ギャップ[eV] |
4.4 |
5.2 |
5.1 |
- Si、Snをドーパントとしたとき、いずれもフェルミ準位が伝導帯下端(CBM)に位置し、n型化が確認されました。
また、いずれのドーパントにおいても光学ギャップが広がることが確認されました。
ポイント
- 実験が難しいナノスケールの現象を、計算シミュレーションから評価が可能
MST技術資料No. | C0560 |
掲載日 | 2019/04/04 |
測定法・加工法 | 計算科学・AI・データ解析
|
製品分野 | パワーデバイス 酸化物半導体
|
分析目的 | 化学結合状態評価 構造評価 その他
|